第11章 一大事編
「まあでも本当によかったよ。名無しちゃんのおかげだ。一人で親に会うだけでも緊張することなのに、喋ってくれてありがとうね」
「ううん、こちらこそ。ヴィクトルがいない時に勝手にこんなことしちゃって、申し訳なくなっちゃったけど」
「うーん、君がそんな風に思う必要はないけど、確かに大事なときにいつも俺だけ参加できないのは何故だろう」
彼が急に神妙に顎をさすりだして、あなたはどう返していいか分からず、苦笑いするしかなかった。
確かに、彼のいないときに偶然会社の仲間達に会ったこともあるのだ。
「君は俺の大事な人なんだけどねえ」
「ふふふ」
そう言いながらソファの背もたれに腕をかけた彼の、シャツ越しの広い胸が目に入った。あなたは自然と、その温もりに誘われるようにもぐりこんだ。
肌のいい香りを深く吸い込み、リラックスがすぐに最高潮になる。
「おっ? 珍しいな。甘えてくれるの?」
「うん。甘えたい⋯」
素直に答えると、大きな手のひらが頭を優しく撫でてくれた。
ホッとした気持ちに満ちていく。今週も色々あったけれど、やっぱりヴィクトルの腕の中が一番落ち着くのだ。
「はぁー。癒やされる」
気の抜けた声をだすと、上から小さめの笑い声が漏れた。
「やっぱり疲れたんだろう。ずっと俺も世話になっちゃってたから」
「違うよ、元気だよ。いつも一緒がいいもん。何してたって、どんな状況でも。⋯⋯前にヴィクトルもそう言ってくれたよね」
顔を上げてじっと見つめた。どんな表情に映ってただろうか。でも彼は愛おしそうにあなたを抱いて瞳を細めている。