第11章 一大事編
あ、でもまだ今日しか会ったことがないのに軽はずみな発言だったかと考えたが、ひとまず彼に伝えたくてたまらなかった。
そのぐらい、彼の母と短い時間ながらわずかでも通じ合えた気がしていたのだ。
「そっか、うん、ちょっと信じられないけどありがたいよ。君がそんな風に感じてくれて。 でも待って、本当にそれ俺の親? なんかイメージが違うんだけどな」
「そうなの? ヴィクトルにそっくりだったよ。優しくて雰囲気が柔らかくて、喋り方も似てたし」
だからあんなにいい空間になったのかな、と勝手に結論づけていると、彼も身を乗り出して耳を傾けている。
「そっか、俺に似てたか。まあ性格は親父よりはお袋の方が近いかもしれないな。それでどんなことを喋ったんだい? というか名無しちゃんすごいよ。俺が思っている以上に君は勇敢だな」
「そんなことないよ、ヴィクトルのお母さんがいい人だったからだよ。えっとね――」
あなたは喋っているうちにあの事がよぎる。
ここで気軽に「そういえばヴィクトルって結婚考えてたんだね、実は私もだよ。嬉しい!」
なんて明るく幸せに満ちた様子で話せればよかったのかもしれないが、性格上できない。
万が一結婚を急かしてるように取られたら悪いと思ったからである。
もちろん有頂天にはなりそうだったが、彼にも二人の将来的なビジョンが見えているということだけで、あなたは満足だった。
だから今すぐ言う必要はないと考えた。なにより勝手に話してしまったと気にしていた、彼の母クレアを心配したのもある。
「あぁでもよかったよ。なんだか名無しちゃんが俺の母親を結構気に入ってくれたのかなって。あ、でも本当に無理してない? 何でも言ってね。 別に大丈夫だから、なにかあったら俺から言うし」
「いやいや大丈夫だよ、本当に何も問題ないし楽しかったの」
あなたが断言すると彼は安心したようだった。