第11章 一大事編
ヴィクトルは夜九時ごろに帰ってきた。あなたは満面の笑みで迎え、彼の周りにまとわりつく。
「ねえねえ、お仕事お疲れ様」
「ありがとう。名無しちゃんは大丈夫だった?」
帰宅して表情が安らいでいる彼は、リビングでスーツの上着を脱いで尋ねる。
「うん、全然大丈夫! ご飯食べる?」
「いただこうかな。ありがとう、楽しみだな。家に帰るのもずっと待ちきれなかったよ」
「私もだよ。へへ」
ヴィクトルが着替えた後、二人は食卓で夕食を取った。今日は大きなステーキで付け合わせも盛り付けも、まるで記念日のように豪華になった気がする。
「美味い! いつも美味しいけど、今日は特にすごいな」
「そうかな。気合い入っちゃった」
あなたは胸の奥がずっとそわそわしていた。いつ切り出そうかと。
でも早くした方がいいかとも思った。もしかしたら彼はお母さんに連絡するかもしれないし、もう結構遅い時間になってしまったからだ。
「あのね。今日すごいことがあったんだ」
「ん? 何?」
「実はヴィクトルのお母さんに会っちゃったの」
「⋯⋯えっ? どういうこと?」
彼は飲み物を持つ手を止めて目が点になっていた。こんな油断した表情は珍しい。あなたの口から母という言葉が出たことに仰天したのだろう。
「ちょ、ちょっと待って説明して。俺のお袋に会ったのかい? どこで?」
「ここに来たの。それでね――」
あなたは今日の出来事を簡単に説明した。
彼はまさに青天の霹靂だったらしく、驚愕が張り付いた顔つきだったが、なんとか頭の中を整理している。
「そうか、分かった。そんなことが起きていたなんて。ごめんね名無しちゃん、いきなりうちに来てびっくりしただろう」
真面目な彼がうっすらと苦悩をにじませ、緊張が伝わってくる。
「君を一人で会わせるなんて全く考えてなかったんだ」
「ううん、 気にしないで。私が上がってもらったの。それに結果的にすごく楽しかったよ」
「⋯⋯ほ、ほんとに?」
「うんっ。ヴィクトルのお母さん、いい人でとっても優しくて。あとものすごい綺麗! 私好きだなぁって思っちゃった」
彼女の人当たりの良さと温かみを思い出すと、自然と笑みがこぼれる。