第11章 一大事編
「ヴィクトルって怒るんですか?」
「いいえ、普段は怒らないんだけど。でもこんな事柄を勝手に親がペラペラ喋ったら恐ろしいことになる気がする。さすがに怒ったら怖いわよね。絶対に怖いわ」
彼女は少し動転してしまっていた。でもあなたは、まだ夢見心地だ。
ぼうっと遠くを見てしまいそうになる。彼の母親が目の前にいるのに。
ヴィクトルが結婚を考えている。では、あの寝言は彼の本心から出た言葉だったのだろうか。
いつからそんな考えを持っていてくれたのだろう?
あなたはじんと心が熱くなり、顔も染め上がっていった。
「大丈夫? ショックだった? もしそこまでの気持ちがまだあなたになかったら、本当に申し訳ないことして――」
「いえっ、違うんです!」
あなたは思わず叫んだ。
「彼がそこまで考えてくれてたこと、知らなかったんです。私本当に嬉しくてありがたくて。いつも全然自信がないので、彼にふさわしくなれるのかなって考えてしまってて。ヴィクトルさんはとても優しくて、いつも支えてくれて励ましてくれるのに」
気づけば思いがあふれ、涙ぐんでいた。
「ずっとそばにいてくれるって言ったけど、ほんとに私でいいのかなって思う時もあったんです。だから今すごく嬉しいんです。すみません。お母様のクレアさんにそんなことを言っても困ると思うんですが」
クレアは懸命に話すあなたのことを、まるで親のように温かな眼差しでじっと見つめていた。
「名無しちゃん。私も今すごく感動しちゃった。あなたってまっすぐでとっても良い子なんだね。⋯でも確かに今のは私が聞いていいメッセージじゃなかったかもしれないね、ふふ。⋯でもすごく安心したというか、ほんとに嬉しくなっちゃった」
そんな寄り添った親身な言葉をかけられて、肩の力が抜けてくる。
「ヴィクトルに言ったらすごく喜ぶと思うわよ。あの子も普段はすかしてるかもしれないけど、ほんとにいい子でね。あなたのこともすごく真剣に考えてると思うから、夫の受け売りだけど。でも今私もなんとなく想像できたわ、 二人が一緒にいる姿。お話ししてくれて、ありがとうね」
「とんでもありません。私もすごく嬉しいです。彼のいない時に勝手に申し訳ない気持ちもあるんですけど、二人で話せたこともすごくありがたかったです、クレアさん。あの、どうかこんな自分ですがよろしくお願いします!」
