第11章 一大事編
「もしかしてあの子がお付き合いしている、名無しさんですか?」
「はい、そうです。こんな形で本当に申し訳ないです」
「そんな謝らないでください。急に押しかけてごめんなさいね。あの子がいないって知らなくて。数日前メッセージでちょっと話がしたいって言ったんだけど、風邪引いてて仕事もあるから今度また連絡するって話で。ちょうど近くで友達と会う予定があったから、お土産だけ渡そうと思ったんですよ」
あなたは説明してくれた彼女に大きく納得をした。
「そうだったんですか。よろしければ上がってください。あっすみません、ここは彼の家ですが。今留守を任されてまして」
「上がっても大丈夫? 」
「もちろんです、 私の方がゲストなので!」
「そんなことないわ」
彼女は軽快に笑い、少し嬉しそうに部屋に上がってくれた。あなたはほっとしながらもまだ手に汗がびっしり滲んでいる。
自分は勝手に何をしているんだろう。彼の留守中にいいのだろうか? と考えたけれど。
彼の母親に対し礼儀正しく振る舞いたいと、その一心だった。
掃除しといてよかった。部屋は元々綺麗だが心からそう思った。
あなたは彼女の好みを聞いてコーヒーを用意する。緊張の面持ちで食卓につくと、彼女はお土産の包装された焼き菓子を差し出してくれた。
「二人で食べ始めちゃいましょうか。あの子には一個残しとけばいいから」
気さくにそう言われ、笑い合った。
お茶をしながら話題をどうしようと、あなたは頭をフル回転させる。
まず席についてもらったこと自体がありがたかった。彼の母は自分のことをすでに認識しているようだ。
彼女はとても背が高く、細身でまるでモデルのような凛々しい女性である。でも気取ったところがなくて、服装もスポーティーかつ洗練されたパンツ姿だった。
「突然でびっくりされたと思いますが、ヴィクトルさんとは今お付き合いをさせていただいています」
「そうなのよね。夫から聞きましたよ。それで私も気になってたの。そうだ、名無しちゃんって呼んでもいい? 」
「もちろんです! クレアさんとお呼びしても大丈夫ですか?」
あなたの問いに彼女はにっこりと頷いた。
年はなんと60代前半らしいが全く見えず、ヴィクトルのお姉さんといっても不思議じゃない。