第11章 一大事編
ヴィクトルからは出なくていいよと言われたが、画面に釘付けになってしまった。50代前後の女性が映っていたのだ。
ロビーを抜けて最上階の五階まで来たようだが、鍵を持ってないらしく、玄関先で待っている。
あなたは女性の姿から直感的に思い至った。
上半身の雰囲気がヴィクトルに似ている。スラッとした感じで顎もシャープだ。
黒髪ショートで瞳も涼やかに整っていて、目が覚めるほどの美女だった。
「あら、いないのね。ここに置いておけばいいか」
そう言って肩掛けカバンから紙袋を取り出している。
あなたはどうしようと鼓動が異常に速く刻む。ここに隠れていてはだめだと、咄嗟にそう考え、反射的に通話のボタンを押してしまった。
「あの、こんにちは。もしかしてヴィクトルさんのご家族の方ですか? 彼は今仕事で不在なのですが、出てもよろしいでしょうか? 」
彼女は「えっ」とすぐに目を見開いた。あなたは焦りつつも続ける。
「急に申し訳ありません、初めまして。私は名無しと申します。今すぐご挨拶に伺います!」
そう言って急いで廊下を抜けて玄関へ向かった。扉を開けてその女性に対面すると、まず勢いよく頭を下げる。
「突然すみません。驚かれたかもしれませんが――」
あなたは落ち着いて自己紹介をした。緊張しながら前を向くと、彼女は納得した顔で頷いていた。
そして想像より、とても柔らかな微笑みを見せてくれた。