第11章 一大事編
土曜日の朝、ヴィクトルは体調が完全に回復していた。あなたは玄関先でスーツ姿の彼をにこやかに見送る。
「名無しちゃん、休日だから眠ってて良かったのに」
「ううん。ちゃんと起きて見送りたかったんだ。こういうのすごくいいよね」
「⋯そうだね。すごくいい」
ヴィクトルが目尻を緩めてあなたの頬にキスをした。それから唇にもだ。
照れあった二人だが、行ってきますと言う彼に行ってらっしゃいと声をかけ、手を振って別れた。
マンションに一人になり、幸せなため息を吐く。
なんだか新婚みたい。
まだ未知の経験が叶ったようで、朝から心が満たされていく。
朝食も美味しそうに食べてくれた。夜までの間、こんな風に彼を待つ日があっても良いものだ。
もうすでに帰宅が待ち遠しくなっていたけれど。
長い廊下を戻り、あなたの特別な一日が始まった。
自由に過ごしていいと言われたので、部屋の空気を入れ替えたり、テラスでお茶をして空を見たり、すっかりくつろいだ気分だった。
ここにいる間はせめて、いつもお世話になっている彼に役立ちたいと料理もしている。
他の家事は正直特にやることがない。食洗機はあるし、掃除も前はハウスキーピングを頼んでいたが、今は彼が自分でやっているらしい。
洗濯はスーツやシャツをクリーニングに出し、細かなものを家で洗う程度のようだ。
あなたは午後になる前に、リビングの隅にあった掃除ロボットを動かすことにした。
丸型のスタイリッシュなこの装置は、アプリと連動して床を掃除してくれるのだ。
ソファーからそれを目で追っていると、なんだか癒やされた。
「働き者でえらいなぁ。可愛い〜」
小さい音を出しながら縦横無尽に動いている。
こんなロボットはあなたの1LDKのアパートには必要ない。だがこの広々したマンションなら、ありがたい存在である。
そうこうしていると午後になり、あなたは後で買い物に行こうと考えた。
日曜日はヴィクトルと近場をブラブラする予定だし、今日は家でゆっくり過ごそう。こういう時間も好みである。
もちろん彼の家だから、変なことをしないように気をつけてはいるけれど。
すると、ある時急にインターフォンが鳴った。あなたはドキッとしてリビングのモニターを見る。