第11章 一大事編
あなたは相変わらず彼の心の広さと温かさに、うずもれてしまいそうだった。
「ヴィクトル、私に甘すぎだよ⋯⋯調子のったらどうするの」
「うーん。喜ぶね」
その言い方がおもしろくて、あなたは彼の胸に横顔をつけたまま無邪気に笑う。
「ねえねえ。一緒に暮らしたら、たぶんほんとに私に幻滅することあるかもしれないよ」
「ないよ。俺のほうこそ君をがっかりさせるかも」
彼はあなたの頬をそっと撫でて、心配と愛情が入り混じった顔つきをしている。
「でも想像がつかないなぁ。いつも完璧だし」
「ははっ。今ものすごくだらしないだろう? そうだ、つい我慢できなくて抱きしめちゃったけど、昨日から風呂に入ってないんだよ。ねえ、入ってもいいかい?」
彼があなたに許可を求めてきたので、瞬きをした。
でもすぐに意図が通じる。看病で心配しっぱなしだったから、こうやって聞いてくれたのだろうと。
「ふふ。なんか可愛いねヴィクトルって」
「え? 笑うとこ?」
「そうだなぁ、熱はないし、シャワーなら大丈夫だと思うけど。いつもどうしてるの?」
「もっと早く入ってるよ」
「じゃあ大丈夫だね」
あなたは再び吹き出してしまったけれど、一緒に浴室に行ってヒーターを暖かくして、彼を見送った。
出てきたらご飯を食べようと約束して。
「あぁ、いいな。君がいるだけで俺はこんなに幸せを感じるんだな。それにね名無しちゃん、君ぐらいだよ。俺の体の心配なんかしてくれるのは」
「ええっ。そんなことないでしょう? 皆心配するよ。あっそういえば昔とか、家族はどうだったの?」
当時の同居していた頃のことを何気なく尋ねると、彼はさらっとこんな話をした。
「放置だね。少しの風邪とか怪我ぐらいなら、あんまり気にされなかったよ」
「えぇっ!」
「男はそんなものかもな。活発で転ぶのも日常茶飯事だし」