第11章 一大事編
仕事が終わると、彼から「お疲れ様」と労いの言葉と、熱が完全に下がったという内容のメッセージが届き、ほっと一安心する。
今日は車だったので、あなたはスーパーで買い物をしてから彼のマンションへ向かった。
「ただいま〜。あれ⋯? いないみたい」
リビングの高い天井の明かりはついていたが、ヴィクトルの姿はなく、奥の書斎室から話し声が聞こえる。
夜八時を過ぎても仕事をしてるようだ。ではその間に料理を作ってしまおうと考えた。
支度をしてキッチンへ立ち、あっさりした鶏のポトフに小さいパスタを入れて煮込む。
飲み物も準備して、一息ついた。
丸型の大人数用ソファに座っていると、余計にがらんとした空間を感じる。
彼はいつもここで過ごしてるんだなぁ。
そんなことを考えながら、暇なので日課のストレッチを始めた。
スタイルの良いヴィクトルにつり合うようにと、いっそう真剣に取り組んでいたのだが、ふと後ろに気配を感じた。
「わっ!!」
あなたが振り向くと彼が微笑みを浮かべ、顎に手を当てて見つめていた。
「いたのヴィクトル! ただいま」
「おかえり名無しちゃん。続けていいよ」
「いや無理、恥ずかしいしっ」
あなたは慌てて身だしなみを整え、すくっと立ち上がった。
両足をあげてる変なポーズを見られてしまった。
しかし彼は気にせず、あなたの前に立って両腕で抱きしめてくる。
昨日から触れてはいけなかったから、気持ちがすぐに安心感に満たされ、背中に手を回した。
「俺達の仲で恥ずかしいなんて思うこと、ないと思うけどなぁ」
「そうかな⋯?」
「うん。君のシャイなとこはとっても可愛いけどね。まあ名無しちゃんはおしとやかな子だからな」
そう言われて目が飛び出るかと思うぐらい見上げた。
「私全然おしとやかじゃないよ!」
「そうなのかい?」
「そうだよ。どっちかというとガサツだよ。要領もあんまりよくないし、それにドジだし――」
何を好きな人の前で悪いところを羅列してるのだろうと気づく。
しかしヴィクトルの反応は予想外だった。
「興味深いね。じゃあもっとそういうところも見せてほしいな」
「⋯⋯えっ? 隠したほうがよくない⋯? 嫌われたら嫌だよ」
「嫌いになんてならないよ。もうこんなに好きなのに」
さらりと告げてこちらの顔を赤くさせるも、彼は熱っぽい笑みで見つめてくる。
