第11章 一大事編
目が覚めたときは、翌朝6時だった。
ベッドにいたはずのヴィクトルの姿がなく、あなたは飛び起きる。
心配に駆られてリビングへ向かうと、なんと広い食卓で食事中の彼を見つけた。
体の力が一気に抜けきっていく。
「ヴィクトル⋯! よかった、もうご飯食べられるんだね!」
「名無しちゃん! ごめんね、起こしちゃったかい」
彼が立ち上がろうとしたので急いで近くへ行った。
昨日作り置きした野菜スープと、スライスしたパンまで数枚食べたようだ。
「私は大丈夫だよ。あぁ、食欲出てよかったよ」
「そうなんだ。朝起きたらすごくお腹減ってて。ありがとう、とても美味しくて食べやすかったよ」
ヴィクトルは昨日の倒れた時とは打って変わり、優しく微笑む。
寝間着姿にガウンを羽織っただけで、緩やかな黒髪に寝癖もついている。
普段と違う隙だらけの姿に、あなたは胸がこみあげてきて、椅子に座る彼のことを肩ごと抱きしめた。
「名無しちゃん⋯⋯」
「もう、心配したでしょう。あんなメールして。すぐに呼ばなきゃだめだよ」
「⋯⋯ごめんね。でもやっぱりまだ離れたほうが⋯⋯」
「やだ」
頑なにハグをして、おでこをくっつけた。
微妙に温かいが、かなり熱が引いている。今は微熱で体の痛みも無くなったと教えられ、心の底から安堵する。
隣の椅子に腰を下ろし、彼と向かい合った。
まったく責めるつもりなんてないが、あなたの切にこもった眼差しに彼は少したじろいでいた。
「昨日は大丈夫だった?」
「ええとね、君に話した通り、幹部の打ち上げがあったんだけど。夕方から調子が悪くなってね。とりあえず出席はしたんだが、早々に帰ってきたんだ。⋯⋯君にメッセージは送りたいし、かといって正直に伝えたら、名無しちゃんは優しいから家に来てしまうかもしれないと思ったんだよ」
「もちろん来るよ。だって心配だもん。そういう時こそそばにいたいよ」
あなたはしっかりと頷き、意思を告げる。
彼は瞳を揺り動かし、あなたの手を握りたそうだったが我慢していた。