第11章 一大事編
暗がりにヴィクトルの広い背中が見える。
今日は本当に心配した。何かあったと思ったら、やっぱり何かあった。
でもまさか思いもよらない事になってるなんて。
こんな時はすぐに呼んでほしい、自分に助けさせてほしい。
湧き出る思いはひとまずしまって、早く良くなりますように、彼の背に向けてそう祈った。
その時だった。彼は「うぅ⋯⋯」と小さく唸った。
「んっ⋯⋯?」
あなたは慌てて体を起こし、静かに忍び寄る。
きちんと寝息は立てているし、大丈夫そうだ。
でも彼は、夢を見てるのか、うなされてるのか、わからなかった。
「名無しちゃん⋯⋯」
「⋯⋯なに? 大丈夫⋯?」
もし寝言だったら答えないほうがいいよね、そう思いながらも、喉をごくりと鳴らして近づく。
すると彼はこう呟いた。
「⋯⋯名無しちゃん⋯⋯結婚したい⋯⋯」
あなたは瞳を最大限に見開き、動きを止める。
しばらく、時間まで停まってしまったかのように微動だに出来なかった。
ヴィクトルはすーっと寝入ったままだ。
あなたは瞳を揺らして、彼の背にぴたりと手のひらをあてる。
まだ熱い。熱は引いてないようだ。
「⋯⋯私も。⋯⋯私も。ヴィクトル」
そう声に出して、あなたは彼の背に額をつけて、柔らかい口元で目を閉じた。