第11章 一大事編
「ふふふ、よかったわ。他の二店舗も調子いいのよ。やっぱり寒い時期こそ本領発揮ね、私達の店は。コートも可愛いでしょ」
「そうなんですよ〜。これなんか売れ行きもよくて!」
彼女と服の話をしているときや、美しい服に囲まれて接客しているときは、あなたにとって至福のひとときだった。
夢中で会話をしていると、イリスの緑の瞳がじっと覗き込んでくる。
「ちょっと、もう二人なんだから敬語よしてよ。昔みたいにおばちゃんでいいからさ」
「えっ⋯⋯いやおばちゃんは勤務先で失礼だよね⋯。まあいいか。イリスさんと二人だし」
あなたは頭に手をやって、素をだして笑った。
にこにこする彼女は母親の高校からの親友であり、物心つく前から知っている人物だ。
本当の叔母のように、身近で信頼のおける女性だった。
「そういえば誕生日の有給、取っていいからね」
「本当っ? やった〜」
「ふふ。喜んじゃって。なに、二日間彼氏と過ごすの? ママから聞いちゃった」
あなたは急に突っ込まれて咳き込みそうになる。
一瞬赤らんでしまったが、彼女はのんびりした母よりも押しが強くはっきりしたタイプだ。
「ま、まあ⋯⋯そんなとこだけど。もしかして全部聞いたの?」
「二十歳上の素敵な男性ってこと? なんで早く教えてくれないのよ〜」
「十八歳だけどね。だってさ⋯⋯イリスさんは家族みたいなものだし、逆に恥ずかしくて⋯」
「なによ、後ろめたいの? 別にいいじゃない、私だって十歳年下の男と事実婚よ? そう考えるとさ、あなたの彼と同い年なんだけど! 片や五十の女と、片や二十代の若い子となんて、男って面白いわね〜」
ははは!と軽快にしてるので、あなたもつられて控え目に笑ってしまった。
「そうか。イリスさんの彼氏とヴィクトルって同い年なんだな。あのお兄さんも面白い人だったよね。元気? 昔一回遊んでもらったね」
「全然元気よ。いつも趣味にかけまわってるわ。たぶん名無しちゃんのそのヴィクトルとは全く違うタイプだろうけどね」
にやにやされて反応に困る。イリスはよくこうしてからかってくるのだ。