第10章 彼の同僚
「まってぇ」
「ん⋯⋯?」
「まだ聞きたいことがあるの⋯!」
「なに⋯?」
「ヴィクトルのお父さんのこと⋯っ」
攻勢に遭いながらあなたははっきりとそう告げた。すると彼はあなたを覆う肩を止めて、まつげの長い瞳を瞬かせる。
「え。俺の親父? ⋯⋯ちょっと待って、今すごく甘い雰囲気の中で親父の顔が浮かんでびっくりしたよ」
「ごめんねっ。でも気になっちゃって。今日聞こうと思ってたの。この前お誕生日だったんだよね?」
そう。彼が父親に二人の関係を伝えたと聞いていたから、反応をものすごく考えていたのだ。
ヴィクトルはすぐに納得し話をしてくれた。印象はまったく悪くなくて、あなたの祝いのメッセージにもお礼を言っていたし、かなり驚かれたが大反対はされなかったと。
「本当⋯?」
「うん、本当だよ。俺はものすごく怒られたけどね。若いお嬢さんに何手を出してるんだって。きっとたぶらかしてると思ったんだろうな」
彼は生温かい目で反芻していたが、あなたは真っ青になる。
「そんなことないよ! むしろ私がたぶらかしてるほうで!」
「おいおい。それは違うでしょう。確かに俺は君の魅力にやられちゃってるけどね?」
大人な彼はこんな話題のときでも包み込むような表情で微笑み、落ち着かせようとしてくれる。
「親父は君の心配とご家族のことが気がかりみたいでね。完全に俺と同じ懸念だから大丈夫。いいかい名無しちゃん、責任は遥か大人の俺にあるんだから、何も心配しないで」
「でも、でも⋯⋯二人のことだよ。それに、お母さんはどうだろう」
「あぁお袋か。大丈夫だよ、きっと親父と同じさ。うちの家族は皆俺みたいな感じだから、君のこと可愛い〜って思うだけだよ。責められるとしたら完全に俺だな。昔から人様の迷惑になることだけはするなって言われてきたからね」
彼は大げさに肩をすくめ、それでも明るい様子だった。
話に聞くと、誠実な彼を見ても分かるように立派なご両親らしい。
でも、ヴィクトルみたいなの⋯? 想像するとなんだか親近感がわく。優しい人達なのかもしれない。
とにかく気を引き締めて、自分にできることをしていこうと思った。