第10章 彼の同僚
「ヴィクトル! おかえりなさい、仕事お疲れ様」
「うん。君もお疲れさま。来てくれてありがとうね、長く待たせちゃってごめんね。取引先とのリモートが長引いてしまって」
彼はまずあなたのそばに来て、体を包み込むようにハグをした。その瞬間びたっと止まったあなたの頬にも、優しくキスをする。
言葉が奪われ見上げると、満面の笑みのヴィクトルがいた。いつも仕事終わりにこの顔を見せてくれて嬉しい。
けれど同時にあなたは顔を染め上げていた。
この国の人間は情熱的で、人前で愛を示したり頻繁なハグもよく行われる。
でも正直、ヴィクトルがそういうタイプだとは知らなかった。彼は仕事関係の人達の前でも気にしないようだ。
もちろんマックスもクリスも、親しい友人かつ仲間ではあるのだが。
「それで、俺の彼女に何か用か? こんな夜に男二人で取り囲むなんて、怖がったらどうするんだよ」
「いやいやお前過保護すぎだろ。名無しちゃんは立派な成人女性だぞ? それに俺達仲良くお話してたよね?」
マックスが軟派に目配せしてくる。あなたは反射的に頷き、それも事実かなと納得していた。
しかしヴィクトルが片眉を上げて眉間に皺をよせたのは少し事情が異なっていた。
彼はマックスに近寄り肩を抱く。そして内緒話をするように身を屈めた。
「おい。お前今名無しちゃんと言ったか? ふざけるなよ。そう呼んでいいのは俺だけだ」
「はぁ!? んなわけねえだろ。お前の知らないところで皆呼んでるよ」
「それは家族や友達とかだろ? 身近な男の中では恋人の俺の特権なんだよ。間違ってもお前はそこに入ってない」
「小せえ男だなぁ! ちょっと聞いたか皆? ねえどう思う君は? こんな余裕のないとこ見たことある?」