第10章 彼の同僚
「え? どこがですか? あぁ名無しさん! あなたのように謙虚で美しく、恋人を思いやる女性がイメージを下げるわけないじゃないですか! というか本気で言ってます? 芝居じゃないですよね?」
「いや、違うな。この子は天然かもしれない。俺の本能が告げている」
逆に芝居がかった態度のマックスが、神妙な顔つきで太い腕を組んだ。
「というか俺のほうが心配になってきたぜ。君、あいつに騙されてない? 大丈夫?」
「え! どっ、どういう意味ですか? ヴィクトルはそんな人じゃないですよね?」
「違いますよ、まったくそういう人じゃありません。高校時代から見る限り、非常に紳士的な方です」
クリスがマックスをたしなめてくれるが、あなたは段々と混乱してきた。
自分が抱いているヴィクトルと、少なくとも近い友人がもつ彼のイメージは違うのだろうか。
でも、男友達ならそんなものだろうし⋯とも考える。
「ああ彼女の瞳がぐるぐると回りだしてます。本当にすみません、困らせるつもりでは。結局こんな風に押しの強いうざ絡みをしてしまい」
「はは、そんなことないですよ、全然うざくないので大丈夫です。こうして彼のお友達とたくさんお話できてすごく嬉しいですから」
あなたは微笑みを浮かべて告げた。それは心の底からの本心である。彼らはかなり口が立つので圧倒はされるが、普通に会話できたことは有難く自信にも繋がった。
「こちらこそです、あなたは優しい方ですね。クリスマス会のことは頭の片隅にでも置いておいてくださいね、当日ぽんと立ち寄ることだって可能ですから」
ウインクして気を使ってくれたクリスと頷き合った。そして彼がまだ話し足りないマックスを連れて立ち去ろうとした時のことだ。
ようやくあなたの想い人が現れたのは。
緩やかな黒髪の長身男性が、ロビーの中から自動ドアを抜けて颯爽と向かってくる。
すらりとした完璧な体型はスーツ姿でも目立ち、とたんにその場がさらに華やかに染まるほどだ。
「ごめん、名無しちゃん! 遅くなってしまって――。⋯⋯ん⋯⋯? お前ら、何してるんだ⋯⋯?」
普段より砕けた口調になったヴィクトルが、若干青ざめた顔つきを引きつらせる。
同僚の二人は慌てることもなく彼に挨拶していたが、このあとの展開がどうなるのか、彼に会えてすごく嬉しかったあなたにも緊張をもたらした。
