第10章 彼の同僚
今日は金曜日の夜で、あなたはヴィクトルの仕事終わりに迎えに来ていた。九時過ぎに、金融ビジネス街のビルが立ち並ぶ道脇に車を停める。
「ああ〜ここしか停められなかった。分かりづらいなぁ。メールしとこう」
小回りが利く車は彼の会社から数十メートル離れた場所にある。駐車枠があり時間も問題ないが、約束の時間を過ぎてもヴィクトルは現れなかった。
十分、二十分と待ちそわそわしたあなたは、車から降りてひとまず会社近くに向かう。
まさか正面に停めることは出来ないし、遠くから様子を眺めようと思っていると、近代的な高層ビルの玄関口は静かで誰もいなかった。
自動ドアの奥のほうに受付と警備員の姿が見えるだけだ。
「まだ終わってないのかな。やっぱり戻ろうかな。⋯⋯あっ、この会社だよね」
館内リストの上層部のいくつかのフロアを、彼が勤めるコンサルティング会社が占有しているようだ。
ここで働いてるんだ。そう現実味が増して、あたりの閑静なビル群を見上げながらドキドキした。
怪しまれないうちに帰ろう、そう思ったときに、建物内から青系の洒落たスーツの男性が現れた。
彼は手ぶらでラフな感じで歩いてきて、かなり屈強な体つきで背も高い。
首も太くスポーツマンのように見えたが、濃い金髪は爽やかに、でも攻めた感じでセットされていて、腕には高級時計も光っている。
「こんばんは」
軽やかに挨拶されたので、あなたも「こんばんは」と愛想よく返す。
そのまま折を見て去ろうとしたら、彼は笑みを浮かべて近づいてきた。
「大丈夫ですか? なにかお手伝いすることあります?」
「えっ! いえいえ、大丈夫です! あのちょっと、人を待っていて――」
そう言うべきではなかったのだが、不審に思われないように告げてしまった。
近くで見るとかなり筋肉の太さがわかる、がっちりした男性だ。年は30代半ばぐらいで、ヴィクトルと変わらないように思えた。
その男性は仕事終わりらしく、あなたと世間話を始めるような雰囲気を発してきた。