第9章 実家にて(彼視点)
きっと向こうは本気じゃないと言いたいのだろう。気持ちは分かるし、自分も完全に驕っているわけではない。何度も何度も考えた。
自分がそばにいたいという欲求にあなたの気持ちを利用していないか、まだ若いあなたの時間と将来を無駄にしてしまうのではないかと。
「それでも好きなんだよ。愛しているんだ。名無しちゃんを」
「⋯⋯名無しさん、というのか。その人は」
そんな風に慈しむ表情で恋人のことを話す息子を見たことがない父親は、背もたれに背を預け、また腕を結んだ。
「わかった。飽きられて去られるまで好きにすればいい。ただし親御さんへ挨拶はしろよ。⋯⋯ああ、彼女もだが、とくにご両親に申し訳ない。俺に娘はいないが、もしいたら、お前みたいなチャラチャラした中年が現れたら一発殴るかもしれない」
「おい酷すぎだろ。親父ぐらい味方してくれよ。まあそうなる覚悟はしてるが⋯」
「親父だから言ってるんだ」
かなりビターな言葉をもらったが、ヴィクトルは愛情が含まれた叱咤として受け取るしかなかった。
「親父にも誕生日おめでとうって言ってくれてたぞ」
「そうか。それはありがたいな。お礼を伝えておいてくれ」
「ああ。あと、そうだ。写真見るか? すっごく可愛いんだよ」
「うっやめろ。これ以上俺の良心の呵責を刺激するんじゃない」
無理やりスマホ画面を見せると、そこには天使のようなあなたのまばゆい笑顔が映る。ずっと前庭園をデートしたときの、晴天の下のあなたである。
ヴィクトルの父は眼鏡をかけて見つめ眺めた。