第9章 実家にて(彼視点)
「本気なんだな。お前もようやく結婚する気になったか。一生独り身だと思っていたが」
「それは同僚にも言われたよ」
「ふっ。それで、いくつなんだ? 彼女は」
「今年二十二歳なんだ」
そう白状したときのヴィクトルは、軽やかに伝えたつもりだが批判の覚悟はもちろんしていた。大きく見張った父の瞳から逸らすこともない。
だが当然、父ロベルトは烈火のごとく怒りだした。
「なんだと? 二十一ということか?」
「いやだから、来月二十二に――」
「同じことだ!!」
立ち上がり机を強く拳で叩かれたものの、ヴィクトルはびくともしない。年をとっても企業の重役として培った迫力は衰えることのない父であるが、唯一怯えない者もこの息子だけなのだ。
「やっぱり問題に思うか」
「当たり前だろう! お前は何を考えている! 年を考えろ、年を! 親御さんには話したのか!?」
「⋯⋯いや⋯⋯まだだ。もちろんお会いしたいとは思っているよ。けどまだ付き合って三ヶ月でな⋯⋯」
呼吸が浅い父の興奮を抑えることは出来なかったが、ひとまず彼は腰を落とす。
そして頭を抱える様子で息子を見据えた。
ヴィクトルはあなたの仕事や環境なども簡単に教え、二人とも真剣交際をしているのだと伝えたが父は険しい顔のままだ。
彼はただでさえ昔気質で女性の扱いは丁寧にしろ、けっして傷つけるなと若い頃から教えていた紳士的な人物でもある。
「年若い女性と付き合って三ヶ月だと⋯⋯そのまま一年付き合ってみろ。お前はもう用なしだ」
「おい! なんでそんなひどいことを言うんだよ。俺は捨てられる前提なのか? 誠心誠意付き合っているぞ、言ったように俺は本気なんだ」
身を乗り出して主張をする。
すべて理解されるとは思っていないが、真剣だということだけは伝えたかった。