第9章 実家にて(彼視点)
「お前の秘書からの贈り物も毎年趣向をこらしていてよかったがな。あいつが出てってからはペアのチケットはなくなったし、気を使われてるのは感じたよ」
自虐的に笑い、ヴィクトルもそれに合わせて口元を上げる。
だが息子とそっくりな父の黒い瞳は、じっと見つめた。
「それで、今回なぜこんなに豪華なプレゼントをよこしてきた。お前なにかしたのか?」
「ひどいな。俺が何か問題を起こしたことがあるか? ただひとりの息子だぞ」
「⋯⋯ふん、ないな。俺の反対を無視して在学中に起業した時ぐらいか」
腕を組んで短く息を吐く。ヴィクトルは堅苦しい親の前でもいつも通り飄々としているが、少しずつ心拍数は上がっていた。
「実はな、親父。今付き合っている人がいるんだ」
「ほう。嘘だろ?」
「嘘じゃないよ。なんでこんなところまで来て一人でさみしげな親に嘘つくんだよ」
「俺は別に寂しくない。あいつだってもうすぐ戻ってくるだろう。まだ別居して1年だからな」
そう言いながらも伏せた瞳に覇気はない。
ヴィクトルも同情的な視線を送った。
母とは別れていないが、1年前に別のアパートへ移ったのだった。父は妻への愛情は強いと自負していたものの、長年1人にすることも多かった。頭が固い彼はきっと退職後二人になってからの接し方を間違えたのだろう。
母は息子との連絡は定期的に取っており、安否確認は出来ている。
「戻ってきてほしいなら行動したらどうだ?」
「偉そうに⋯⋯簡単に言うな。女心は複雑なんだ。男心もだがな」
「それは分かるけどなぁ⋯⋯」
ここへ来るたびに同じ話をし、飽きてきてもいる。
ヴィクトルは少なくとも1年に三回実家に顔を出す。クリスマスやイースター、新年などだ。
両親が別居していると二度手間になるとも思ったが、それは言わなかった。
「それで、もったいぶるなよ。お前と付き合ってくれている優しい女性とはどんな人なんだ?」
暗に息子を同類の仕事人間だと揶揄しているのだが、ヴィクトルは自然と表情が緩んでしまった。
「素敵な人だよ。とても心優しくて、純粋な女性だ。ユーモアもあって、とにかく可愛らしい。俺は今幸せなんだ。こんな風に感じたのは初めてさ」
父親は顎を引いて怪訝な顔をしつつ、息子をじっと捉えた。