第9章 実家にて(彼視点)
日曜日の午後。ヴィクトルは黒塗りの自家用車を運転していた。サングラスをかけ片手でハンドルを握り、車内に響くロック音楽を楽しんでいる。
最近あなたとの共通の趣味を知ったことから、昔聴いてた音楽をまた漁り始めていた。
山道を走り海が見えてきた丘で、彼は車を停めた。白壁が風景に映える一軒家前に降り立つ。
ここは空気が気持ちいい見晴らし抜群の土地だ。自分が独立した後に両親が購入したのだが、今の孤独な家主を考えると、来るたび心が痛まないこともない。
「――はい」
「親父。俺だ、開けてくれ」
サングラスを取って大きな荷物を傍らに抱えたヴィクトルは、扉が開くと手をあげた。
現れたのはグレイヘアの長身の男だ。堀の深い顔立ちと切れ長で知性的な目元はヴィクトルそっくりだが、甘さを引いて威厳を足したような美形だった。
カジュアルなダウンとジーンズ姿の息子に対し、彼は家でも皺一つないシャツとセーターをまとっている。
「よう」
「来たのか。入れ。唐突だな」
「何言ってるんだよ。今日は親父の誕生日だろ? ほらこれ、おめでとう」
両手で持って差し出す。すると彼の父、ロベルトは普段の仏頂面を明るく驚かせる。
「おお、こんな良いメーカーのゴルフクラブ買ったのか? これは素晴らしい。ありがとうな。だが珍しいな、何かあったのか? 70まではまだ先だぞ」
軽口を叩きながら父はそれを屋内に運び、開封して喜んでいる。ヴィクトルはほっとした瞳をがらんとした家に移した。
ガラス張りの広い室内で崖下の海が一望できる。開放的なテラスにはくつろげる椅子が置かれ、机にはコーヒーと新聞が乗っていた。
リビングも整頓されていて、男の一人暮らしにしてはとても綺麗だ。
「誕生日会はするのか?」
「そんなだいそれたものじゃないけどな。夜に友人らと食事に行くよ」
まだまだ元気で活動的な父だが、大企業に勤めて二年前に退職したロベルトは、ヴィクトルと同じく昼夜問わず働く仕事人間だった。
今の生活はかなり時間を持て余してるはずである。
二人はダイニングテーブルで向かい合った。
父はコーヒーを出してくれ、菓子もつまむ。