第8章 会社にて
国際事業を統括するヴィクトルは、仕事の上では彼をかなり信頼している。
それは若い時から知る、友人の弟という縁もあった。
だから以前は夜の店に連れて行ってやったりもしてたのだが。
「クリス。よくも彼女のことを社長に言ってくれたな」
「え。その話ってもう随分前の話じゃないですか?」
「さっきエリオが知ってたぞ。想像できるか? 俺はまるで中学生に戻ったかのように発汗しそうな気分だったよ」
疲弊した愚痴をこぼすと、クリスは横で楽しそうに笑っていた。
「面白いですね、モテモテの色男のヴィクトルがそんな目に合うとは。でも安心してくださいよ、どんな人かは兄貴にしか言ってないですから。あの人もエリオにしか話してないですよ」
「だから今マックスにも知られたんだがな。⋯⋯あぁもういいさ。仕方ない。どのみち皆には紹介することになるかもしれないしな」
開き直って告げるとクリスの瞳が輝く。
「本当ですか? では名無しさんを今年のクリスマス会に誘うんですね? 楽しみですね〜! あなたが公式の場にパートナーを連れてるとこなんて見たことありませんし! もうすぐですよ、ヴィクトル!」
「いやちょっと待て。俺はそんなこと一言も言ってない。こんなガツガツしたコンサルタントの連中に囲まれたら、怖いだろう? 名無しちゃんは健気で優しい女性なんだから」
「⋯⋯あっはあ、そうですか。なんですかその気が緩んだ過保護な表情は。クライアントに見せられませんよ。⋯⋯あなた、随分キちゃってますねぇ」
面白がるのか引いてるのか分からない部下の声は、ヴィクトルには届いていなかった。
あなたのことをすでに知った者と、あなたについて話すのは不思議と気分が高揚する。
もう随分前から、自分は年甲斐もなく浮かれているのだ。
しかし同時に、色んな念がうずまきそうな職場のクリスマスパーティーに誘うなどということは、まだ到底考えられなかった。