第13章 私の名
涙が止まり、気持ちも落ち着いてから、八重は鼻を啜りながら脹相から身を離した。
「もう、大丈夫です」
泣き腫らした目だろうことが気恥ずかしくて脹相のことは見れない。
それでも「八重」と名前を呼ばれれば瞳は脹相を見上げてしまう。
「その…〝繋がり〟といったか?あれはお前からだけなのか?」
「え…?」
八重の理解が追い付かない。
脹相は顎に手を当てて少し考えると、「俺から結ぶことはできるのか、という意味だ」と付け加えた。
「え…と…やったことがないのでわからないのですが…」
〝繋がり〟は完全に「寿命の分与」の副次的効果である。
それを後付で分与された側から結ぶという発想自体がなかった。
「できるのか?できないのか?」
僅かに圧がかかった問いを重ねられ、八重は「…たぶん…可能かと思います…」と絞り出した。
感覚的なものなので説明は難しいのだが、何となくできてるように感じる。
「そうか。どうすればいい」
あっさり受け入れる脹相に今度は八重の気持ちが追い付かない。
「あの…どうしてそのようなことを…?」
脹相は一度八重と視線を合わせるとフイッと顔を背けて、「連絡が取れた方が食事の準備もしやすいだろう」と言った。
何て、わかりやすい人なのだろうと思う。
すぐに視線を八重に戻すと「で、どうすればいい」と話を戻してくる。
「…血を少しいただければ…たぶん」
「……」
それを聞いて脹相は黙り込む。
それはそうだろう。
いきなり「血を寄越せ」などと言われたら誰だってそうなる、と八重でも思う。
「すみません。この話はなかったことに…」
八重が引こうとすると「違う」と脹相が否定し、「俺の血は人間にとって毒なんだ」と説明した。
「あ、それなら…大丈夫だと思います。私、不死身ですので」
少しユーモアも交えたニュアンスで言ってみると、脹相にも伝わったようで「随分な自信だな」と言って少し笑った。
そして、顔の痣から血を滲ませると指で掬って八重に差し出した。
血の乗った脹相の指を見つめ、八重は動きを止めた。
「どうした?」
脹相が怪訝そうな顔をする。
八重はしばらく躊躇う。
そして意を決したように脹相を見た。