• テキストサイズ

【呪術廻戦】誰も知らない

第13章 私の名



「「八重」」

八重が自分の名前を告げるのと同時に脹相に名前を呼ばれていた。
八重が目を見開いたのはどうして脹相がその名前を知っているのか、という驚きではなかった。
脹相が呼んだ名前が温かな波となって八重に押し寄せ、そして身体に染み込んでいく。
自分でも認識できていなかった空洞が満たされていく感覚。
欠けたピースがパチリとはまるような心地よさ。

(あぁ…そうだ……私の名前は…八重、だ)

もう失ったと思っていた。
もう返ってこないと思っていた。
でも違っていた。
八重の起源は寿命と一緒に脹相に渡されていた。
それが今、脹相によって返されたのだ。

(……あなたが持っていてくれたんだ…)

頬に温かいものがつたって初めて、八重は自分が泣いているのに気付いた。
慌てて涙を拭う。
しかし、涙は次から次へと溢れてきて、止まる気配がない。

「すみません…少し、落ち着いてきます」

その場を離れようとする八重の手首を脹相が掴んでそうさせない。
それでも緩く手を引き離れようとする。
早くこの場を離れて気持ちの整理をしたい。
このままの姿を晒し続けるわけにはいかない。
それなのに脹相は離してくれない。
さらには脹相が立ち上がり、その肩を八重に差し出した。

「ここで泣けばいいだろう」

なんという甘言だろう。
一瞬、身を委ねたくなる。
しかし、薄皮1枚で繋がっている凝り固まった理性がそれを許さない。
身動ぎして離れようとするが、今度は頭を後ろから支えるように肩に押し付けられる。

「…一人になるな、八重」

もう一度、今度はしっかりと名前を呼ばれる。
一人でいるなと求められる。
その温かな響きにもう逆らうことなどできなかった。
八重は逃れようと添えていた手で脹相の服を緩く掴んだ。

「……ありがとう、ございます…」

今までの1000年のほとんどが一人だった。
これからの1000年も独りかもしれない。
しかし、今、この瞬間だけは自分の名を呼ぶこの人に少しだけ寄りかかってしまおう。
そう自分に許しを与えられた。
/ 90ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp