第21章 繋縛
「……でも」と言い淀む八重の言葉が出る前に。
「…それでも俺の痛みに気を取られ、誓えないというのなら…」
脹相は先程力強く八重の背中を押したその口で、今度は奈落に落とす言葉を吐く。
「俺はお前との〝繋がり〟を断つ」
その一言は八重の目の前を真っ暗にするには充分過ぎるもので、八重の魂は震えた。
「……そんな…そんなのは…」
ひどいなんては言えなかった。
脹相からしてみたら当たり前の取引材料であると納得できる。
できてしまう。
縋るように脹相を見る。
彼の目に嘘はない。
いつだってそうだ。
八重にはわかっている。
そういうところに惹かれているのだから。
それだけに150年間の一方的な〝繋がり〟を、そしてここ2週間の相互的な〝繋がり〟を、脹相側から断たれるということの現実味を肌で感じる。
八重は下唇を噛み締めて俯くと絞り出すように呟いた。
「……わかりました…もう、あなたの痛みに…干渉しません…」
「俺だけじゃない。誰にも使うな」
「……はい」
もとより脹相以外に使おうとも思っていない力だ。
ただ脹相にだけは使いたかった。
たった一つだけ八重が脹相のためにできることさえ取り上げられて、(じゃあ、私は脹相に何をしてあげられるんだろう)という問いの迷宮に再び足を踏み入れなければならなくなる。
そうなりかけたその時。
「話は終わりだ」
脹相は勢いよく立ち上がった。
「行くぞ」
そう言って八重を見る脹相の目にはもはや怒りや迷いの類はなく、いつもの感情の凪いだ目に戻っていた。
「…どこに…?」
もう自分にできることはないと思っていた八重は自分はどこに向かえばいいのか、自分が向かってもいいのかすらわからなかった。
そんな様子の八重に脹相は小さく息を吐く。
「…悠仁が戻ってきている。事情は後で話すが、ひどく落ち込んでいる。お前はお前の仕事をしろ」
(…あぁ、そうだった)
八重が脹相に初めてもらった役割があった。
「…はい……悠仁くんに、温かい食事を作ります…」
まだここにいてはいい理由を思い出し、八重はようやく立ち上がることができた。