第13章 私の名
八重が外から帰ってくると脹相は窓辺で眠れているようだった。
(…よかった)
八重は微笑むと外から持ち帰った物の整理をする。
出来るだけ音は立てないように気をつける。
少しでも長く眠ってほしい。
しばらくして、脹相の寝顔が見たくなってチラリとそちらを見るとバチッと目が合った。
思わず手が止まる。
いつから起きていたのだろうか。
一人気まずくなって目を逸らし、「すみません、起こしてしまいました」と取り繕う。
「いい。少し目を閉じていただけだ」
「いえいえ、しっかり寝てましたよ」などとは言えるはずもなく、別の部屋で休んではどうかと提案するも、まだ八重に聞きたいことがあるからと断られる。
昨日、粗方のことは話をしている。
他に尋ねられることかあるとするなら、それは八重が敢えてしていない話ばかりだ。
思い当たることはありすぎる。
「俺はお前と感情が繋がっていると感じる時がある。これはなんだ?」
もっともな質問だと思う。
むしろタイミングとしては遅かったようにすら感じる。
標本瓶に自分の血を入れたことだけ伝える。
「どうして入れた?」
これももっとも。
血を入れたのは寿命を分与する際の媒介であるのだが、出来れば脹相には自分の寿命を分け与えていることは言いたくない。
寿命を分けてもなお6人もの九相図は死んでしまったのだから、それを恩着せがましく話したくはない。
何とか上手いこと言えないものかと考えている間に、思ったよりも時間がかかってしまった。
脹相が不思議そうにこちらを振り返る。
なのでしかたなく、「少しでも繋がる可能性があると思って…」とだけ言った。
あながち嘘でもない。
少しでも命が繋がるならと思っての分与である。
脹相が〝繋がり〟のことだとミスリードしてくれれば万々歳。
不快なら〝繋がり〟を切ることもできると提案すれば完璧に話題はそちらにシフトできる。
「いつでも切れるものなら今はいい。今のところお前の気配はわかった方がいい」
どうやら思惑は上手くいったようで安堵する。
それと同時に〝繋がり〟を切らなくてもいいと言われたのは、側にいていいと言われたような気がして、嬉しかった。