第13章 私の名
早速食事の準備をするためにいろいろと確認をする。
水は、水道が生きている。
電気は途絶えているが、幸いこの部屋はプロパンガスも使える状態だ。
煮炊きには不自由しなさそうだ。
次は食材。
そのまま食べられそうな物は既に食べてしまっているようなので外に探しにいかなければならない。
いつの間にか外から戻ってきた脹相に一声かけて外に出ようとしたが止められる。
(一応、心配はしてくれているのかな…?)
少しだけ嬉しくなる。
でも、外に出なければどうにもならないので、軽くいなして外に出る。
戻ってくると脹相は窓辺にもたれかかって眠っていた。
どうしてこんな場所で寝ているのかはわからない。
寝顔をこっそり盗み見る。
八重を前にする脹相はいつも眉間に力が入っているが、今は少しだけあどけない。
八重は胸が温かくなるのを感じた。
そのままでは寒かろうと掛物をしてやる。
が、起こしてしまった。
(掛けなきゃよかった…)
少しだけ後悔する。
それから脹相は八重のことを聞かせろと言う。
八重はあまり自分の話はしたくなかったが、そうしなければ対等じゃない、らしい。
八重は渋々ながら自らのこれまでの歩みを出来るだけ簡潔に話をした。
海沿いの漁師の家に生まれたこと。
父が海難に遭い、不思議な肉を持ち帰ったこと。
幼い頃の病で死に瀕した時にその不思議な肉を食べたこと。
ある一時期から年を取らなくなったこと。
恩人と呼べる人に出会ったこと。
その人の元で学び、比丘尼になろうと決意したこと。
比丘尼になって全国を旅したこと。
故意に自らの力のことには触れずに。
出来ればこの後話さなければならない内容の中でも触れずに話したい。
八重と九相図との話の中で、少しでもそれに触れてしまったら自分の罪に言い訳をしているように感じてしまうから。
「そして…あなたの母様に出会いました」
きっと脹相が一番知りたいあろう話。
八重が一番向き合いたくない話でもある。
乱れそうになる心を落ち着けて、話す覚悟をする。
しかし、その途端「それはもう聞いた。話さなくていい」と、話はその後の時間へと移っていった。
正直、八重は内心呆気にとられていた。
どうして自らの出自の部分だけ聞こうとしないのか、八重はさっぱりわからなかった。