第13章 私の名
「……脹相とも初めは渋谷で戦ってたんだ。何なら殺されかけた。でも、その後からお兄ちゃんだって言ってついてくるんだよ」
「そうだったんですね……どおりで…」
「?」
「たぶんあなたが死にかけた時に脹相さんはひどく動揺してました。壊相さんや血塗さんが亡くなった時と同じくらいか、それ以上に」
「なんでそんなことわかるんだよ」
「それは……秘密です」
一瞬沈黙した虎杖は「秘密て…」と苦笑いした。
しかし、次の瞬間には真剣な目になった。
「だから、ごめん。壊相と血塗に会えなくしちゃって」
そう言うとしっかり頭を下げてきた。
八重は少し目を丸くした。
(なんて真っ直ぐな人なんだろう…)
「いえ、私は大丈夫です。脹相さんは……何と言っていましたか?」
「アイツは…『事故みたいなものだ』って……」
「…そうですか、あの人らしいですね」
八重は少しだけ微笑む。
虎杖は「?」と不思議そう。
「脹相さんにとっては大切な方々だったんです」
「……うん」
「その方々を奪ったという事実は、軽いものではないですね」
虎杖は答えなかった。
ただ、小さく息を吐く。
八重はそんな虎杖を見て、わずかに視線を落とした。
(あぁ、この人、それ以外にも何かをたくさん背負っている…)
あんな惨状を残した場所で戦っていたのだ。
いろいろ失って、たくさん奪ってきたはずだ。
虎杖もまた心が凍てついているのだろう。
(だから、『温かい食事を』か……)
脹相はどこまでも兄として温かい。
八重は虎杖に近づくとその手を取った。
ゴツゴツした傷だらけの手。
指先が少しだけ冷たい。
労うようにそっと手で包む。
「……頑張って、美味しいものを作りますね」
(この指先が少しでも温まるように……)
八重は穏やかに笑ってみせた。