第21章 繋縛
「…昨日、気付いたら身体の痛みがなくなっていた。前にも、乙骨と合流した後、拠点でそう感じた時があった。その後、お前が痛がっていると感じた。昨日もそうだった……お前が何かしたのか?」
脹相は正面を向いたまま自分の膝に肘をつき、組んだ手に顎を乗せて八重が危惧していたとおりの言い分を述べた。
八重にとったら想定問答である。
「……私は他人の痛みを肩代わりできる力があります」
八重も正面を向いたまま、さもそれだけの能力であるかのように語る。
今ならその説明だけで事が済むと踏んだ。
「…それだけか?」
「え…」
それだけ、とはどういう意味なのか分かりかねた。
『それだけの力』なのか『力はそれだけ』なのか。
どちらの解釈にするかによって回答は大きく変わる。
八重はしばらく沈黙して脹相が言葉の真意を語ってくれるのを待った。
しかし、脹相も黙って八重の返答を待っている。
その沈黙に耐えかねて結局は八重から言葉を発してしまう。
「…それくらいしか使ったことがないので…わかりません」
嘘とも本当とも言えないような答えだったが脹相はいつものように「そうか」と言って再び黙った。
焦点が合っていない視線は何かを考え込んでいるようで、それが何なのか、脹相が次に口を開く時に何が飛び出てくるのかわからない。
「…でも、痛みを引き受けても不老不死の効果で次の日にはなくなるんです。だから、私が引き受けた方が効率がいいのではないでしょうか」
少し早口になってしまった言葉が自分の耳にも言い訳がましく聞こえてしまい、それに焦る自分に(あ、これは言い訳だ)と遅れて認識する。
自分で認識できる程のものが脹相に伝わっていない訳もなく、少し離れた隣で凪いでいたものが急に波立つのを肌で感じた。
そのすぐ後で今度はそれが音になって鼓膜を揺らす。
「……それは…お前の、本心か…?」
今までよりも低く押し出されたその声が、当たったそばから肌が一気に粟立つ。
きゅうと締まる声帯で声を出せずにいると。
「…お前は、それを…本気で言っているのか…?」
と、更に問いを重ねられる。
怒っているでは済まされない感情が乗っている。
八重には逃げ場がない。
自分の言葉には責を持たねばならないと覚悟を決めざるを得ない。