第10章 常盤緑
あの舞の後、小枯は削れを自覚した。時雨を使う度合いによっては体が動かなくなる。あれ以来自分の意思が追い付かない身体の変化に、小枯は馴染もうとしていた。自分が削れることで周りにかかる迷惑についても、見えて来ている。
だから南天に礼を言いたかった。謝りたくもあった。
初めて時雨の削れで動けなくなった自分を看てくれたのが南天だと思っていたから。
「…迷惑なんかかかってないから安心して?気にしないで。大丈夫だから」
綺麗な顔に作り笑いが浮かんでいる。
迷惑をかけている。
小枯は顔を俯けて頷いた。
「あ、初枯…!」
南天が顔を輝かせて手を上げた。
嬉しそうな目線の先に、小奇麗な恰好をした見目好い男児がいた。背丈はあまり大きくないが、南天と同じく大きな目の整った顔立ちが目立つ。人好きする快活な笑顔が真っ直ぐ南天に向けられている。
似合いだな。
小枯は咄嗟に南天の傍を離れた。
嬉しそうに初枯に寄り添う南天を振り向き、小枯は息を吐いた。
似合いのふたりだ。
うん。良くない。邪魔してしまった。
正直胸が痛んだ。独りよがりに南天へ声をかけた自分に嫌悪感が募る。
…本当に馬鹿だな、私は。
足元を見ながら、浮かれていた気持ちを落ち着ける。
「小枯」
ふと名前を呼ばれて顔を上げれば霜刃がいた。
常と変わらぬ淡々とした様子で、常と変わらず真っ直ぐこっちを見てくる。
「下を向くな。転ぶ」
小枯はちょっと気が軽くなって、笑った。
「ただ立っていて転ぶほど器用じゃないよ、私は」
「お前は器用だ」
「変な器用だなあ」
「どうであれ器用だ。かと言って褒めてはいないぞ」
「そうか。ありがとう」
「礼には及ばない。ただ気をつけろ」
涼し気な顔に浮かんだ汗を拭って、霜刃が空を見上げた。
「暑くなる」
「今もう暑いしな」
「請われても時雨を使うな」
「どうだろうなぁ。大祭だからなぁ」
「大祭は大祭。お前はお前」
「まあそりゃそうだ」
「お前が時雨を使わずとも大祭は執り行われる」
それはそうだ。
でも、もし、皆が喜んでくれるのならば、時雨を使わざるを得ないかも知れない。
大祭だからこそ。
考え込んだ小枯を考え深げに眺め、霜刃は目を細めて空を見上げた。
「雨でも降ればいいものを」
「雨も悪くないが、今日この日の雨は文字通り水を差すぞ」