第10章 常盤緑
「…蒸す。大丈夫か?」
淡々とした顔に滲んだ汗を拭って、霜刃が眉を顰めた。
「着慣れない衣装を着ることになるからなぁ。皆暑くて難儀するぞ」
周りを見回して言った小枯に霜刃はますます眉を顰める。
「お前の話だ」
「そりゃ私も難儀するだろうな。お前…お前は慣れているか…」
神官の息子として神事に携わる霜刃を見、小枯は首を傾げた。
「とは言え暑いことに変わりないよなぁ。無理するなよ?」
霜刃は黙って首を振った。
「あっちで冷や水を振る舞ってたぞ。飲みに行くか?」
「混み合う」
「そりゃ仕方ないさ。暑いのは皆一緒だもの」
「好かぬ」
「お前、社でお勤めするんだろ?人慣れしとかないと大変だぞ」
「不要だ」
「ふん?まあ、変わり者の神職もありか。神職は人ではなく神に仕えるのだものな」
「俺は誰にも仕えない。信心するだけだ」
「それが仕えるってことらしいぞ?」
「仕えない」
「…お前は面白い奴だよなぁ…」
「詰まらぬ」
「自分がどう言っても他所から見たら面白いんだから仕方ない」
「不要だ」
「はは。そうか。要らないならしょうがない。それがお前だもんな」
話しているうちに随分気楽になったことに気付いて、小枯はまた首を傾げた。
霜刃をつくづく見て、腕を組む。
「…うん。有りだ。お前、神職向きだよ」
眉を上げた霜刃に小枯はにこっと笑った。
「何だか気楽になった」
「何かあったか」
険しい表情を浮かべた霜刃に小枯は慌てて手を振った。
「大きな祭事だからちょっと気が張った」
「…出張らずとも良い」
「そういう訳にはいかないさ。勤めは勤めだもの」
「帰るか」
「いや、霜刃。帰らない。私もお前も。馬鹿なこというなよ。お前、今日三番叟を舞うんだろ?晴れ舞台じゃないか」
小枯に言われて霜刃は眉根を寄せた。
「面倒だ」
「お前の舞を見るのは初めてだから、楽しみだ」
「ただの舞だ」