白と黒のハーモニー 第二局 【ヒカルの碁・緒方精次】
第15章 ○ 白川のアドバイスと初恋の話 ●
緒方は星歌から目を逸らして、小さく答えた。
「…聞きたい」
星歌は仕事の手を動かしつつ、クスッと笑って話し始める。
「背の高いお兄ちゃんが手をつないでくれた記憶があって、しいて言えばその人が初恋の人かも」
白川が目を輝かせて身を乗り出す。
「レオナルド・ディカプリオみたいなイケメン?」
「日本の人ですよ」
星歌は笑いながら首を振る。
「まだ渡米する前のことです。たぶん3歳くらいかな?でも、日本にいたとき近くにそんな男の子が住んでたのかどうか、親に聞いても分からなくて。だから、どこの誰なのか、どうして手をつないだのかも分からないんです。背が高くてメガネを掛けてたってことだけは覚えているんですけど、もしかしたら夢だったのかもって、少し思ってます」
芦原が、楽しそうに茶化す。
「星歌ちゃん、昔から年上のメガネ好き?」
「そういうわけじゃないとは思うんですけど…」
星歌は頬を赤くしながら、チラリと緒方を見た。
白川がハッとしたように手を打ち、緒方を見て言う。
「メガネのお兄ちゃん…。もしかして、オレ?」
「おい!」
ずっと黙っていた緒方が、思わず声を荒げる。
「冗談だよ冗談!とにかく、ずっと気になってた星歌ちゃんの初恋の人について聞けてよかったな、緒方」
「…別に気にしてなかった」
緒方は呟くが、誰が見ても耳の赤さは明らかだった。
星歌の初恋は、夢かもしれない曖昧な存在。オレの知らない場所に、誰かがいなくてよかった…と、緒方は思う。胸の奥に刺さっていた小さな棘が、音もなく抜け落ちるような感覚。張りつめていたものがゆるみ、肩の力が抜けた。
白川がニヤリと笑って言う。
「星歌ちゃんは、今は緒方一筋だもんね」
星歌は恥ずかしそうに、でも迷いなく、小さく頷いた。
「はい」
その一言が、緒方の胸の奥にあたたかな灯をともした。自分が星歌の「今」であり、星歌の1番でいる…。それだけで十分だ。
緒方は無言で、ただ星歌の横顔を眺めている。その瞳の優しさに、同期の棋士と弟弟子は気づいていた。