白と黒のハーモニー 第二局 【ヒカルの碁・緒方精次】
第14章 ● 久しぶりの美術館 ○
美術館を後にした2人は手をつなぎ、歩いている。
緒方は星歌の横顔を盗み見る。頰には穏やかな紅潮が戻り、落ち着いた様子にホッとする。
カフェの窓際席では、温かい紅茶から湯気が立ち上っている。
「今日は、ありがとう…」
「オレのほうこそ」
互いを思う穏やかな会話が繰り広げられた。
カフェから駐車場までの道中で緒方は問う。
「夕飯どうする?うちで作るか?それとも、寿司でも食っていくか?」
「お寿司?」
「ああ、美味い店、知ってる」
行きつけの寿司屋の暖簾をくぐると、大将の声が迎える。
「いらっしゃいませ、緒方先生!碁聖獲得、おめでとうございます!」
「ありがとう」
緒方はクールに答える。
「前に連れてきてくださった弟弟子さんも活躍されてますが、今日は妹弟子さんとご一緒ですか?」
大将は星歌を見てにこやかに言う。星歌は大将に会釈をした。
「彼女は碁は打たないんだ」
「そうでしたか、それは失礼いたしました」
緒方が説明をすると、大将は勘違いを詫びる。見習いの若い板前が、カウンター越しにニヤリと笑った。
「もしかして、ネクタイピンの彼女ですか?」
店内が一瞬、静まる。
緒方は静かに頷く。
「ああ」
「大将、これバズりますよ?ハッピー緒方の聖地って」
「お客さまのプライベートを商売に利用するな!」
大将は再び緒方に向き直り、深く頭を下げる。
「若いのが失礼を言って申し訳ありません。どうぞ安心して、ごゆっくりお召し上がりください」
2人はおまかせのコースで舌鼓を打つ。
「こんなにおいしいお寿司、初めて」
「そうか、それはよかった」
星歌の笑顔に緒方の心があたたまる。…この星歌はオレにとって、かけがえのないものだ。泣かすようなことはしない。星歌が笑顔でいてくれれば、それでいい。緒方は星歌の隣で、そんな想いを抱いていた。