白と黒のハーモニー 第二局 【ヒカルの碁・緒方精次】
第14章 ● 久しぶりの美術館 ○
美術館に行きたかったのは、本当。オルセーの所蔵、ずっと見たかったんだ。でも、精次さんの部屋に2人きりだと我慢させてるみたいで、気まずい気がして…。ゆみちゃんが言うみたいに、きっと精次さんは待ってくれると思うけど、なんとなく怖かった。だから今日は、外で過ごしたかった。それなのに…。車にあの女の人を乗せたんだって…。
やっぱり、知り合いじゃなくて元カノだった。きれいな人だったな…。大人っぽくて、精次さんとお似合い…。
今は私だけって言うけど、じゃあ、どうしてあの人を車に乗せたの?送っただけって言うけど、本当?
視界の隅に色鮮やかなキャンバス。でも、頭の中はあの香水の匂いでいっぱい…。
「星歌、ちゃんと絵、見てるか?」
精次さんの声。
「…うん」
「見てないだろ」
黙っていたら、精次さんに手を引かれて中庭へと出た。
見上げると空にはいわし雲。日差しは秋の色なのに、まだ少し暑い。
2人でベンチに座る。
「アイツのことを気にしているのか?」
「…ごめん」
謝るしかなかった。
「本当に何もない。ぶらぶらしていたら偶然会って、お茶してから送っただけだ。アイツは、もうすぐ結婚すると指輪を見せつけてきた。お互い、特別な感情はない」
…結婚。その言葉に、胸の奥のモヤモヤが少しだけ、晴れた気がした。
顔を上げると、精次さんが不安げな目で私を見てる。その目を見たら、嘘なんてついてないってすぐに分かった。
過去に嫉妬しても、仕方ないよね…。
風が吹いて、汗がスッと引く感じが気持ちいい。中庭の木の葉が揺れてパラパラと音を立てる。
「…うん、信じてる」
小さく呟いたら、精次さんが私の手をギュッと握って「…ありがとう」って言ってくれた。
美術館の建物が、背後で静かに佇んでいる。
不安は完全には消えていないけど、この手は私だけのもの、そんなふうに思えた。