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白と黒のハーモニー 第二局 【ヒカルの碁・緒方精次】

第14章 ● 久しぶりの美術館 ○


 緒方は星歌のマンションの前で車を停めて待つ。星歌が久しぶりに美術館へ行きたがったためだ。すぐに星歌は現れ、小さく手を振る。
 車に乗り込むなり、星歌は小さく首を傾げる。
「…なんか、シートが…後ろ?」
 あのときアイツが動かしたからだと思いだすが、無言でエンジンをかける。
 さらに星歌は言う。
「芳香剤、変えたの?」
「いや、変えてない」
 星歌はシートに頬を寄せるようにして、小さく呟く。
「…香水の匂いがする」
 頭の中に、耳元にアトマイザーを吹き付けた瞬間が鮮明に映しだされる。沈黙が数秒間続く。
 星歌は膝の上で指を絡め、小さな声で問う。
「…誰か、女の人が乗ったの?」
 ハンドルを握る手に、わずかに力を込めた。
「…ああ」
「この前、レストランで会った…元カノ?」
「オレには、星歌だけだ」
「…私は、あの人を乗せたのかどうかを聞いたんだよ…」
 即座に答える緒方に対して星歌が静かに反論する。車内の空気は凍りつく。
 信号で車は停まり、緒方は星歌の横顔をジッと見つめた。
「…送っただけだ。ただそれだけだ、何もない」  
「…うん…」
 星歌は唇を噛み、小さく頷いた。

 美術館までの道のりは沈黙に包まれている。ラジオも流さず、車内は重苦しい空気に満たされたままだ。
 駐車場に停めてエンジンを切ると緒方は、助手席の星歌をそっと覗き込む。
「どうした?」
 優しく静かな声。
 星歌は震える声で答える。
「…精次さんに元カノがいるのは、分かってるけど…実際に会っちゃうと生々しくて…つらい…」
 涙が星歌の頬を伝う。
 緒方は星歌の頭を優しく撫でた。
「変なヤキモチ…ごめん…」
 星歌は涙声になっている。
 緒方は星歌の涙を拭いながら、静かに、だがはっきりと言う。
「送っただけとはいえ、アイツを車に乗せたオレが無神経だった。だが、アイツとは何もない。今も、これからも、オレには星歌だけだ」
 星歌は目を潤ませながら頷く。
 駐車場の近くにある美術館は、2人を見守るようにそびえ立つ。星歌の心には、不安が残ったままであった。
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