• テキストサイズ

白と黒のハーモニー 第二局 【ヒカルの碁・緒方精次】

第14章 ● 久しぶりの美術館 ○


 食べ終わると星歌は、いつものように両手を合わせて「ごちそうさまでした」と、頭を下げる。緒方もつられて「ごちそうさま」と、小さく手を合わせる。最近、こういう癖がうつりつつあることに内心で苦笑いするが、悪い気はしていない。

 帰路へと向かう車が走りだしてしばらくは、2人とも無言だった。街灯が、規則正しく車内を照らしては消えていく。
やがて、星歌が口を開いた。
「今日は…ありがとう。…それから、ごめん…」
「どうして謝る?星歌は悪くないだろ?」
 緒方はハンドルを握ったまま答える。
「…面倒な女みたいかな…って思って」
「そんなことはない。オレが無神経だった」
 星歌が謝った瞬間、緒方は、自分の無神経さを改めて突きつけられたような気がしていた。「面倒な女」なんて思ったことはない。むしろ星歌の嫉妬が、どこかで嬉しかったようにも思う。オレの過去に、星歌がこんなに心を揺らしている。それだけで胸が熱くなる。
 星歌は小さな声で言う。
「…精次さんのこと信じてる。でも、もう…車にあの人を乗せないでほしい…」
「ああ、もう会うこともない」
「…うん…」
 やがて、星歌のマンションの前で車が静かに停まる。
 星歌はシートベルトを外して、笑顔で緒方を見た。
「精次さん、ありがとう。おやすみ」
 星歌の目に、まだかすかな不安の色が残っていることに緒方は気づく。まァ、そんな簡単に払拭はできないか…。だが、このまま帰せるわけはない。
 緒方は無言で身を寄せた。無防備な星歌の頬に触れ、そのまま唇を重ねる。星歌の目は驚きとともに見開かれるが、次の瞬間にはまぶたが落ちる。車内の空気は一気に甘くなり、熱を帯びている。
 緒方は唇を離すが、手は星歌の頬に残ったまま。星歌の目をまっすぐ見て、緒方は静かに、そして力強く言う。
「オレには、星歌だけだ」
「…うん」
 車を降りた星歌がマンションのエントランスへ消えていく姿を見届けてから、緒方は静かにアクセルを踏む。…アイツはもう完全に過去だ。オレの人生にもう現れることはない。もう二度と星歌を不安にさせやしない。緒方は決意を新たにしていた。
/ 83ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp