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白と黒のハーモニー 第二局 【ヒカルの碁・緒方精次】

第7章 ○ 未来を色づけていく、初夏 ●


 梅雨の雨は3日間続き、街の湿度は高い。の窓ガラスは雨粒で霞み、店内のコーヒーの香りは来る者の心を落ち着かせる。
 カウンターに肘をついた白川が、ため息を吐く。
「毎日雨だと、気分が滅入るね…」
 星歌はアイスコーヒーを注ぎながら頷く。
「そうですね…。でも、紫陽花がきれいですよ。雨の中でも色が鮮やかで、気分が上がりそうです」
 白川の目がパッと輝いた。
「確かに!星歌ちゃんも、緒方に連れてってもらいなよ」
 瞬間、星歌の頬が赤く染まる。
「でも、ハッピー緒方ってバレたら…」
 カウンターの端で、緒方が小さく口を開いた。
「変装して行けばいいだろ」
 白川が、ニヤリと笑う。
「この頃は、ハッピー緒方ブームも落ち着いたんじゃない?マスクと帽子で十分だろ」
 …紫陽花。雨の中を2人で、傘を1つに、肩を寄せ合う…。
「じゃあ…今度、紫陽花見に行きたいな…」
「ああ。約束だ」
 緒方はクールに頷いた。
 雨音が店内を優しく包んでいる。

 朝から細かな雨が降り続く週末。緒方と星歌は、鎌倉の長谷寺へ向かう。肩を寄せ合って1つの傘に収まり、由比ヶ浜大通りを歩く。
「精次さん、こっち」
 星歌が指差す先は紫陽花の小路。雨に濡れた花弁が青、紫、桃色と色を変え、道を彩る。長谷寺の境内に入ると、紫陽花はさらに鮮やかだ。石段を上るたび、雨粒が花弁を打つ音が響く。
「見て、こっちの紫陽花、色がグラデーション」
 雨に濡れた花が青から紫へと溶けていくようだ。
 緒方は、そっと星歌の肩に手を回す。
「雨でも、きれいだな」
 星歌の横顔、濡れた髪と赤い頬に心臓がドキリとする。2人は、紫陽花のトンネルに入る。雨音がわずかに遠のく、静かな空間。星歌が、ふと足を止めた。
「精次さん」
「ん?」
「今日は…ありがとう」
 緒方は、マスクを少しずらした。雨の匂い、紫陽花の香り、星歌のぬくもりを感じる。
「オレのほうこそ」
 雨音に紛れるように、小さなキスを落とす。雨はまだ降り続き、紫陽花の花弁が静かに揺れている。2人の世界は、鮮やかに色づいていた。
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