白と黒のハーモニー 第二局 【ヒカルの碁・緒方精次】
第7章 ○ 未来を色づけていく、初夏 ●
6月、梅雨の合間の晴れ日。カフェは冷房の涼しさとコーヒーの香りで満ちていた。
星歌はバイト中に半袖のTシャツを着ることが増え、左の手首にはひまわりモチーフのブレスレットが堂々と飾られている。カウンターの奥でアイスコーヒーを注ぐ際には、そのチェーンが光を受けてキラリと輝く。
ガラス扉が押し開けられ、入ってきたのは芦原だった。スーツのジャケットを手に、軽く手を挙げてカウンターへ。
「いらっしゃいませ」
星歌が微笑むと、芦原はいつもの席、カウンターの真ん中に腰を下ろす。
「アイスコーヒーお願い」
注文を済ませると、芦原は窓の外を見る。
「さっき、棋院の近くに修学旅行生がいたよ。みんな元気いっぱいだったな」
「修学旅行、いいですね!」
「高校って2年生で修学旅行なのかな?星歌ちゃん、去年行った?」
「転校してきたのが9月で、修学旅行は6月だったから行けませんでした」
星歌は少し困ったような笑顔を見せる。
「そっか。じゃあ、卒業旅行が楽しみだね!緒方さんにどこか連れてってもらいなよ」
芦原のニヤリとした笑みに、カウンターの端に座っていた緒方の肩が、ピクリと跳ねた。
「星歌と…旅行?」
緒方の声がわずかに裏返る。
芦原は吹き出し、白川が隣でクスクス笑う。
「先月の囲碁ゼミナールで泊まったところ、いい感じだったよ。温泉でまったりするのもいいんじゃない?」
星歌は頬を赤く染める。
「…そんな、旅行なんて…」
…でもいつか、そんな日が来れば…。
緒方の胸の奥に、小さな火が灯る。卒業旅行、星歌と2人きりで…。朝も夜も、星歌の笑顔を独り占めできる。
「いつか…な」
緒方は、クールに呟くが、耳元は熱を帯びている。
星歌は小さく頷く。
「…いつか」
そんな未来はまだ遠く、けれど確かに、近づいていた。