白と黒のハーモニー 第二局 【ヒカルの碁・緒方精次】
第5章 ○ 赤い糸で結ばれる公認カップル ●
星歌は教室の片隅でスマホの画面を見つめている。画面には明日美からのメッセージ。
「さっき、棋院で緒方先生が真柴さんにブチ切れたの!『星歌はオレの最愛の人だ』って、談話室中に響く声で怒鳴ったんだよ。真柴は平謝りして、棋院は緒方先生と星歌の話題でざわついてる」
星歌の顔が、カッと熱くなる。「最愛の人」…?精次さんが、みんなの前で…?恥ずかしさと嬉しさが同時に押し寄せ、思わず両手で顔を覆った。ゆみちゃんにバレたときより1000倍恥ずかしい。どんな顔で今日のバイトに行けばいいの…?
夕方、棋院内のカフェにて。
エプロン姿の星歌はいつも通り笑顔で接客するが、胸中は落ち着かない。…あのテーブルの出版部の人たち、こっち見てクスクスしてる…?隣の女流の先生方のグループは、ヒソヒソと噂話してる…?カウンターの桑原先生もニヤニヤしてる気がする…。きっと、もう、みんなに知られている…。
トレイを持つ手がかすかに震え、足取りもぎこちなくなる。
「緒方くん、今日は遅いのう」
突然、桑原本因坊が言い、心臓が跳ねる。
「え、えっと…」
星歌が答えに詰まっているとガラス扉が押し開けられ、緒方と白川が入店する。
「いらっしゃいませ」
星歌の声が、わずかに裏返る。
緒方はいつも通りのクールな表情で、いつも通りカウンターの端に座る。コーヒーを注文した緒方と目が合うと、「最愛の人」の言葉が思いだされ、星歌の顔は熱くなる。
「星歌」
緒方が小さく名前を呼ぶ、その一言で星歌の心があたたまっていく。
「ほらほら、愛の囁きはあとでね~」
白川が軽く茶化す。
カウンターの向こうでは、客たちがチラチラとこちらを見ている気がする。…やっぱり、知られている…?
「まァ、棋院じゃもう公認カップルだよ」
「…公認、ですか?」
白川の言葉に、星歌が恥ずかしそうに聞き返す。
「オレが守る」
緒方は静かに、でも力強く言う。
星歌の目が潤む。精次さんが、みんなの前で言ってくれた…。私を守ってくれた…。もう秘密ではない。2人の小さな秘密はすでに大きな輪になり、でも、確かにあたたかく包まれていた。