白と黒のハーモニー 第二局 【ヒカルの碁・緒方精次】
第5章 ○ 赤い糸で結ばれる公認カップル ●
カウンターでは桑原本因坊がコーヒーカップを回しながら、穏やかな笑みを浮かべている。老棋士の瞳は盤面を見据えるように、緒方と星歌を交互に捉える。やがて、呟くように桑原が言う。
「緒方くんの勇ましい姿、ワシも見たかったのう」
「本当にすごかったですよ。『星歌はオレの最愛の人だ』ですからね。談話室にいた全員が固まりましたよ」
「…うるさい」
緒方は眉間にシワを寄せ、低く呟いた。平静を装ってはいるが、耳は熱を帯びている。
「オレは、事実を言ったまでだ」
クールに言葉を続けて星歌を見ると、顔を赤くして動きが一瞬だけ止まっている。その様子が愛らしく、緒方の胸があたたかくなる。
「女流の若い子とか院生の女の子はうっとりしてましたよ。映画のワンシーンみたいでしたからね。女の子としては、彼氏がそんなことしてくれるのマンザラでもないでしょ?」
「…え!えっと!」
急に話題を振られて、星歌はうろたえている。
「ひゃっひゃっひゃっ!」
桑原は豪快に笑った。
「前にワシが言ったじゃろ?赤い糸で結ばれておるんじゃよ」
星歌がバイトを始めたばかりの頃、確かに「赤い糸」と言ったのを聞いた。ジジイと星歌のことを抜かしやがっているのかと当時のオレは内心で毒づいていたが、全てお見通しだったと言うのか?まさか…ただの勘だろ?…でも、星歌と出会ったのは確かに運命かもしれない…と緒方は思う。
「緒方くんの囲碁にとって、恋愛はプラスに働きそうじゃの。だが、本因坊の座はまだまだ譲らんぞ」
「どうぞ、首を洗って待っていてください」
緒方は静かに答える。
…星歌はオレの力だ。最愛の人であり、運命の相手だ。オレはいつか、本因坊のタイトルも獲る。もっと強くなる、星歌の笑顔を守り続ける。その決意が、胸の奥で静かに燃え上がっていた。