第12章 ※イタリアの空は、君を諦めない【REBORN ディーノ】
「君が憧れて、勉強して、遠い日本から会いに来てくれたこの国の美しさは……あんな男たちの暴力で塗り潰されていいものじゃない。君が愛した美術館も、石畳の街並みも、陽気なリストランテも、本来は君を笑顔にするためにあるべきなんだ」
ディーノの手は、地下室で味わったどの熱とも違っていた。
欲望を押し付けるための無機質な熱ではなく、ただそこに在ることを許し、守ろうとする慈愛に満ちた確かな体温。
「君がこの国を、もう一度『美しい』と思えるようになるまで、俺がそばにいる。君の傷が癒えるまで、ここを君の家にすればいい。……今度は、俺が君に本当のイタリアを見せる番だ」
ディーノはそう言って、の青白い頬を労るように見つめた。
その眼差しは、凍てつく地下室で浴びせられた加虐的な視線とは正反対の、陽だまりのような温かさを湛えている。
「ここ数日は、満足に眠れなかっただろ。今は何も考えなくていい。ここで、ゆっくりと体を休めるんだ。ここは安全な場所だと俺が保証するよ」
「……はい。ありがとうございます、ディーノさん」
「ああ。もし、暗闇が怖くなったり、何かあれば、いつでも隣の部屋においで。俺はそこにいるから。……いいかい?」
ディーノは立ち上がると、の頭にそっと手を置いた。
大きな掌が髪を慈しむように優しく撫でる。
「おやすみ、。いい夢を」
彼が静かに部屋を出ていくと、重厚な扉がカチリと音を立てて閉まった。
静寂が戻った寝室で、はぼんやりと天井を眺めた。
数時間前まで自分は鎖に繋がれ、何人もの男たちに欲望を叩き込まれるだけの『器』として扱われていた。
それが今では高級のシルクに包まれ、一国の王子様のような男に守られている。
(……夢、なのかな。もし目が覚めて、またあの地下室だったら……)
一瞬背筋を冷たい汗が伝う。
だが、鼻先をかすめるのはディーノの清潔な香りと、洗い立てのシーツの匂いだ。
連日の陵辱と、極限状態の緊張。
それらが一気に解け、鉛のような疲労が全身を支配し始める。
沈み込むような柔らかいベッドの感触が、泥のように重くなった体を優しく受け止めた。
はまるで深い海の底へ沈んでいくように、抗いようのない眠りの中へと落ちていったーー。