禪院家の落ちこぼれシリーズ 【R18】クロスオーバー
第14章 へなちょこな彼は彼女を愛したい 【REBORN ディーノ】
京都の街並みは、彼女の記憶にあるものよりもずっと明るく、穏やかだった。
タクシーを降り、「禪院家」の広大な屋敷が鎮座していたはずの場所へ向かう。
そこは、呪術界の権威を象徴するような重苦しい空気と、歴史の重みに塗り潰された、忌まわしくも巨大な門構えがある場所だ。
だが、目の前に広がっていたのは、緑豊かな公共の公園と、近代的な美術館だった。
「……ない」
いのりは呆然と立ち尽くした。
そこには、不浄な呪力の澱みも、門番の冷ややかな視線も、何一つ存在しなかった。
ただ、子供たちの笑い声と、のどかな午後の陽光が降り注いでいるだけだ。
「どうした、いのり? 顔色が悪いぞ。ここが、お前の探してた場所なのか?」
心配そうに顔を覗き込むディーノに、いのりは静かに首を横に振った。
どこかで予感していた。空気が、あまりに綺麗すぎたから。
「いえ、これで……はっきりしました。ここには、私の家も、私がいた場所も、最初から存在してないんです」
「……どういうことだ?」
ロマーリオも怪訝そうに眉を寄せた。
二人を近くのベンチへと促し、いのりは意を決して、これまで胸に秘めていた真実を口にした。
「ディーノさん、ロマーリオさん。驚かないで聞いてください。私は……単に日本から飛ばされてきたわけじゃないんです。おそらく、別の世界から来ました」
「……別の世界?」
ディーノが鸚鵡返しに呟く。
「はい。私のいた日本は、人間の負の感情から生まれる『呪い』が怪物になって人を襲う、そんな世界でした。私はその呪いを狩る術師の家系、禪院家に生まれました。でも、そこは力がすべてで、女は人間扱いされない地獄のような場所で……。私はそこから逃げ出したくて、気づいたらイタリアにいたんです」
信じがたい話だった。
呪術、呪霊、並行世界。
科学的にも、マフィアの常識としても逸脱しすぎている。
だが、語るいのりの瞳は真剣そのもので、その声は震えていた。