第17章 いい子 ※
「…………あの人、苦手……」
渋柿でも食べたような、心底嫌そうな表情でナマエが呟く。
「お前がそこまで言うのも珍しいな」
「んん……」
こいつだって人間だ。苦手な奴の一人や二人いるのは分かるが、それをはっきりと口に出すのは かなり珍しい。
「変な妄想に巻き込まれ事故したの……何故か私まで同中扱い……」
それは……心中お察しする。
虎杖の話を聞く限り、アレにはひどい妄想癖があり、存在しない過去を脳内に構築して既成事実化するらしい。
それに巻き込まれたとなれば、ナマエが虎杖のように追い回されるのも、もはや時間の問題かもしれない。
「ドンマイ」
「野薔薇ちゃん……。もし絡まれたら、絶対見捨てないでね」
「無理。私まで巻き込まれたら堪ったもんじゃないもの」
「酷い…!!」
半泣きになったナマエの懇願すらも、釘崎は淡々と切り捨てた。
俺には到底真似できないその非情さに少しだけ感心しながら残ったピザを処理していると、再び扉をノックする音が室内に響く。
「失礼。苧環殿がここに居ると聞いて来たのだが」
開かれた扉の隙間から姿を表したのは、加茂さんだった。
「私……ですか?」
名指しで呼ばれたナマエは反射的に立ち上がったものの、心当たりが全くないらしく、小さく首を傾げて固まっている。
「ああ、少し二人で話がしたい」
「話……。あの、ここじゃダメですか?」
「ダメだ」
「んぇ………」
有無を言わせぬその口ぶりに、ナマエが困惑の声を漏らす。
……何となく、俺にはその話の内容が分かってしまった。
昨日、ナマエに惹かれたこの人は、気を引くための接触を図ろうとしているのだろう。
そしてそれに勘づいた以上、ナマエをこの部屋から連れ出させるわけにはいかない。
「加茂さん、コイツにちょっかい出すの、止めてもらえますか」
「そーよ!!ウチのナマエを京都校の連中に易々と差し出すわけないでしょ!一昨日来なさい!!」
俺の牽制とはまた別の温度感で、尻尾を踏まれた猫のように毛を逆立てた釘崎が背後から加勢した。