第17章 いい子 ※
「なあに、恵くん」
相も変わらず慈悲満載の表情で振り返ったナマエは、わざとらしく首を傾げて見せる。
俺が何を言いたいのか、どうして欲しいのか。そのすべてを掌の上で転がしているような表情に、ほんの少し、また腹が立った。
「……入れ」
「いいの?」
「いいから言ってんだよ。早くしろ」
苛立ちを隠さずに吐き捨てたが、ナマエに怯えた様子は微塵もない。
それどころか「お邪魔しま〜す」と少し弾んだ声で室内へと入り込んできて、その無防備さにため息が漏れた。
「……用が済んだら部屋戻れよ」
ベッドに腰掛けたナマエを見下ろしてそう告げると、ナマエは不服そうに頬を膨らませ、口を尖らせた。
「……昨日来なくて怒ったのは恵くんでしょ。だから来たのに」
「それは今日がオフだったからだ。明日は交流会あんだから、身体休めといた方がいいだろ」
説得を試みて正論を振りかざせば、不機嫌に眉を顰めたナマエは「じゃあ帰る」とベッドから立ち上がろうとする。
が、俺が両肩を抑えて阻止すれば、ベッドのスプリングを軋ませながら、再びそこへ腰を落とした。
「帰ってほしいの……?ほしくないの……?どっち……?」
「あ?わざわざ聞かなくてもわかんだろ」
ぶっきらぼうにそう告げると、ナマエは困ったように俺を見上げ、「わかんないよ……」と眉を八の字に曲げる。
「……俺は椅子で寝るから、お前はベッド使え」
赤い瞳に見上げられて毒気を抜かれた俺は、くしゃりとナマエの髪を撫で、近くの椅子に腰を落とした。
その様子を見たナマエはギョッと目を見開いて立ち上がる。
「ダメだよ…!恵くん怪我人なんだから!」
「うるせぇ。俺がいいっつってんだから、いいんだよ」
それだけ言って目を瞑るが、目前に感じるナマエの気配は中々離れようとしない。
「い、一緒に……」
「ダメだ」
「まだ言い切ってないのに!」
溢れ出ようとする無慈悲で甘い誘い文句にすかさず蓋をすれば、ナマエはまた頬を膨らませ、口先を尖らせた。