第17章 いい子 ※
俺の過剰な反応を見て「器が小さい」だの「余裕のない男は嫌われるわよ」だの、散々好き勝手言い切った釘崎は、ようやく満足したように俺から目を逸らした。
「ところで虎杖。アンタいつの間にあのゴリラと仲良くなったのよ」
そしてナマエが切り分けた果物を、どれから食べようかと品定めしている虎杖に疑問を投げかける。
「いや、仲良くなったっつーか……、記憶はあんだけど、あの時は俺が俺じゃなかったというか……」
「何アンタ、酔ってたの?」
「……釘崎は俺があの状況で酒を飲みかねないと思ってるの?」
虎杖は「ショックなんだけど……」と大袈裟に肩を落として見せたが、次の瞬間にはケロリとした表情でウサギ型の林檎を口の中へ放り込んだ。
「でもまぁ、伏黒の怪我が大したことなくて良かったな!」
「……あの時、呪力カラカラだったのが逆に良かったみたいだ。根を取り除いた時点で、家入さんの治せる程度だった」
後から聞いた話だと、俺と真希さんに植え付けられた呪霊の根は、宿主の呪力を吸って成長する性質だったらしい。
加茂さんとの闘いでかなり消耗していたのが結果的に生存率を上げた。
後で軽く礼でもしに行こうかと思考が過ぎったが、俺の目の前でナマエを口説こうとしていた姿を思い出し、その殊勝な考えは投げ捨てた。
「……虎杖」
「んあ?」
名前を呼びかけると、虎杖は口に運ぼうとしたピザを直前で止め、軽く首を傾げて俺を見る。
俺と真希さんが特級呪霊に追い詰められていた時、間に割って俺たちから呪霊を退けたのはコイツと東堂だ。
そしてあの時の虎杖からは、少年院で諦めたように「頼む」と言い放った弱々しい影なんて欠片も感じられず、ただ、「任せろ」と語るような、静かな圧が立ち上っていたのを覚えている。
「オマエ、強くなったんだな」
本心から出た言葉をそのまま告げると、虎杖は不意を突かれたように瞳を丸くして、持っていたピザを紙皿の上に落とした。