第17章 いい子 ※
会いたくなかったわけじゃない。
それでも、安静が必要な時に無理をさせるなんてことはしたくなかった。
「……ごめんなさい。会いに来たら、迷惑かなって」
「迷惑なわけねえだろ」
くしゃりと髪を撫でられて、部屋に入る前とはまた別の罪悪感で胸が満たされる。
「……いい加減、ちゃんとこっち向け」
「っ……、」
頭に乗せられていた手が髪を梳くような柔らかな手つきに変わっても、私は頑なに俯き続けた。
すると今度は耳の下から首筋にかけてを指先でするりと撫でられ、条件反射でぴくりと肩が震えた。
「跡、丸見えだぞ」
「跡……?」
心当たりがなく首を傾げると、恵くんはふっと短く鼻を鳴らし、「鏡、見てねぇのか」と低く呟いた。
そしてそのまま私の首筋に顔を寄せ、熱を孕んだ息を吹きかける。
「っ……、鏡、いつも見てるよ、」
「今日は」
「きょ、……は、急いで来たから見てない………んっ」
ぬるりと首筋に生暖かく柔らかい感触が這い、擽ったさで変な声が溢れてしまう。
「……あぁ、いつもの制服だと見えねぇのか」
「……?」
いつもは制服に着替えてから、身だしなみを整えるために鏡の前に立つ。
だけど今日は一刻も早く恵くんに会いたくて、無事なその姿を目に収めたくて。
朝起きた瞬間、適当なスウェットを羽織ってそのまま部屋を飛び出してきたから、鏡なんて見る暇もなかった。
「途中、誰かに会ったか?」
「んん…………あっ!伊地知さん!」
「…………」
数分前、廊下で「おっ、お疲れ様です……!」と何故か顔を赤くして、困ったように目を逸らした伊地知さんの顔を思い出して答える。
すると恵くんは片手で顔を覆い、深い溜息を吐き出した。
(私、また まずいことしちゃった……?)
おそるおそる問いかけようとした、その時。
バァン!! と部屋の扉が大きな音を立てて開け放た驚いて振り返ると、そこには片手でピザの箱を持つ虎杖くんが立っていた。