第17章 いい子 ※
高専の療養室のひとつ。
その扉の前で深く深呼吸をした私は、ひとり決意を固めるように頷いてから、震える指で軽くノックをした。
「恵くん、私……」
「………入れ」
返事が来たことに安堵しながら、重いドアノブを捻って隙間から中を覗き込む。
すると、そこには見たこともないほど不機嫌そうに顔を顰めた恵くんがベッドに腰掛けていて、私は反射的にパタンと扉を閉めた。
「オイ、なに閉めてんだよ」
「やっ、あのっ、なんて言うか、罪悪感が……!!」
「あ?何のだよ」
何のって、それは………。
(委員長の事もそうだけど……、私が引き止めたせいで怪我の治りが遅かったとか言われたら、たぶん立ち直れない……)
覚悟を決めたはずなのに、恵くんの顔を見た瞬間に押し殺していた不安がひしひしと顔を出してくる。
(それに、すっっっごい不機嫌な顔してたし……)
やはり、思い当たること以外にも、私は何かやらかしていたのだろうか。
だとすれば尚更、この敷居を跨ぐ勇気が出ない。
「ナマエ、入れ」
「う゛ッ」
「怒ってねえから、……早くこっち来い」
「うぅ……っ」
有無を言わせぬ恵くんの言葉に丸め込まれ、私は観念してドアを引き、室内へ足を踏み入れた。
目線を泳がせたまま、ベッド脇にある丸椅子に座ると、間髪入れず「こっち見ろ」とのご指示をいただき、私はぎゅっと口を結んだまま顔を上げた。
(わぁ……)
そして一番に飛び込んできた恵くんの表情は、不機嫌を顔に貼り付けたようなものだった。
眉間の皺は深く、その鋭い視線が私の全身を突き刺さしてくる。
「………怒ってる」
「……怒ってねぇ」
「うそ!!見たことないくらい眉間に皺酔ってるもん!!」
「………」
食い下がって反論すると、恵くんは口をへの字に曲げて私からふいっと視線を逸らした。
これは図星だ。恵くんが何かを言い淀んでいる時にする仕草。
「……お前、何で昨日の夜来なかったんだよ」
「え…?」
顔を背けたまま唐突に投げかけられた問いに、思わず首が傾く。
「この部屋に居るって連絡入れたろ。……なんで来ねぇんだよ」
「え……えっ!?いや、療養中だし、ゆっくりしたいかなぁって…!!それに、」
それに昨晩 送られてきた連絡は、この部屋にいるという淡白な一文だけだった。