第16章 運命的な再開
何か、おかしい。直感的にそう感じた。
集中したい時、話題がなくて気まずい時、怒っている時。
いつも口数が少ない恵くんだからこそ、その沈黙の質に、私は嫌でも敏感になっている。
けれど、今の彼が纏っている気配は、何か隠し事をしているような、そんな歪な色をしていた。
「怪我してないか?見せてくれ」
「え……、あっ、してない…!してないよ…っ!?」
探るようにその瞳を見上げていると、突然強引に腕を引かれて身体が密着した。
そして恵くんの長い指が私の顎を掬い上げ、ゆっくりと、大好きな整った顔が近づいてくる。
「めっ……恵くん…!!っ……今はっ、監視してる五条さんたちに見られちゃうかもだから…っ」
「大丈夫、烏は全部落としておいた」
慌てて空いた手で彼の口元を塞ごうとしたけれど、それを煩わしそうに振り払った恵くんの口から、私たち生徒が知り得ない情報が溢れた。
「え……?烏……?」
五条さんたちは「監視している」とは言っていたけれど、その具体的な方法までは明かさなかった。
私たち生徒全員の前で、ハッキリと、「教えない」と言っていた。
それを恵くんにだけ教えるなんてことは───有り得ない。
「貴方、……だれ?」
確信が冷たい汗になって背中を伝う。
目の前の彼は、恵くんじゃない。
誰かが私の大好きな人の姿を象って、私を騙そうとしている。
「何言ってるんだ。俺は───」
「恵くんじゃない。……恵くんは、授業中にこんな場所で、こんなことしない」
今の今まで気づかなかった自分に吐き気がしたけれど、それよりも今は、目の前の人間の正体を確かめなければならない。
そう判断して、私は未だ私の腕を掴む腕を振り払い、数歩後ずさって距離を取った。
「………あーあ、バレちゃった」
「っ、」
恵くんの顔が見たこともない歪な形に釣り上がった、次の瞬間。
恵くんの身体が どろりと溶けて、地面へと流れ落ちていく。
───そして、中から姿を現したのは。
「久しぶりだね、苧環さん。僕のこと覚えてる?……覚えてるよね?」
不器用な笑みが印象的な彼は───私と恵くんが結ばれるキッカケをくれた、"あの人"だった。