第11章 それぞれの役割
男の子の姿を見送った後。
気まずい沈黙の中ふたりで立ち尽くしていると、間からぬるりと白い髪が視界に割り込んできた。
「恵ってば、大人気ないねぇ」
「!?」
聞こえるはずのない声音に驚いて振り返ると、五条さんが「や!」と片手をあげて、楽しそうに笑っていた。
「…………なんで居るんですか」
「いやぁ、面白いものが見られそうな予感がしてさ!」
「来ちゃった!」と続けられて、居心地が悪そうに顔を歪め、五条さんを忌々しげに睨み上げる恵くん。
そんなどこか懐かしい光景に胸の奥が温かくなって、つい、くすりと笑みが漏れた。
「……何笑ってんだよ」
「ふふ、ごめん。なんだか、懐かしくなっちゃって」
くすくすと笑いながら返すと、恵くんは毒気を抜かれたように黙り込んでしまった。
高専に上がってからというもの、こうして三人でとりとめもなく話す時間は一度もなかった。
授業や訓練で顔を合わせることはあっても、五条さんはすぐに多忙な任務へと消えてしまうから。
……何でもない、この風景が好き。
だから、私はこの二人が何よりも大切で、大好き。
「……戻ろう。虎杖くんと釘崎さんも、待ってるよ」
でも、今日からは私たち三人だけじゃない。
これからは五人で、新しい日常を積み上げていくんだ。
それは少しだけ寂しいけれど、より多くの人に囲まれて笑う二人を、傍で見ていたいと思うから。
「私も、お腹すいてきちゃった!」
胸の端にあるこの小さな雑念は心の奥底に隠して、私は二人が幸せになれるように動く。
好きだから。愛しているから。
たとえ、それが二人に望まれていることではなかったとしても。
私は二人のためなら、なんだってしてみせる。
きっとそれが、私が今ここに居る理由で、役割だから。