第11章 それぞれの役割
恵くんがそう言うのなら、私にそうあってほしいと願ってくれるなら。
私が拒む理由なんて、どこにもない。
「……っ、出来るか分かんないけど、頑張る…っ」
「別に、無理してやれとは言ってねぇだろ」
少しだけ呆れたように、けれど慈しむように目を細めて。
恵くんはまだ涙の熱が残る私の頬を、親指の腹でそっとなぞってくれた。
「ところで、なんで二人だけに任せたんですか」
恵くんが私から手を離し、五条さんへ問いかける。
その声はいつもの冷静なトーンに戻っていたけれど、視線だけは、まだ落ち着かない私の様子を窺うように側に留まっていた。
「お前は病み上がり、ナマエは午前の任務明けだから」
「でも、虎杖は要監視でしょ」
「まぁね。……でも、今回試されてるのは野薔薇の方だよ」
五条さんは唇の端を吊り上げ、不気味に静まり返った廃ビルを見上げた。
「悠仁はさ、イカレてんだよね」
そう言って、五条さんは虎杖くんのことについて話し始めた。
異形とはいえ、生き物の形をした呪いを、自分を殺そうとするものを一切の躊躇なく殺しに行ける。
それも昔から呪いに触れていたわけじゃない、ただの高校生だった子が。
才能があっても、この根源的な嫌悪と恐怖に打ち勝てずに挫折していった呪術師を、私たちは嫌というほど見てきた。
「今日は彼女のイカレっぷりを、確かめたいのさ」
「……釘崎は経験者ですよね。今更なんじゃないですか?」
「呪いは人の心から生まれる。人口に比例して、呪いも多く、強くなるでしょ」
東京という巨大な負の集積地。
そこに巣食う呪いは、地方のそれとは根源的な悪意の濃度が違う。
「地方と東京じゃ、呪いのレベルが違う」
確かに、私が育った村で見る呪霊よりも、こっちに来てから出会った呪霊の方が何倍もやりにくい。
低級であっても姑息に立ち回り、人の心を揺さぶる術を知っていて、執拗にこちらを惑わせてくる。
二人の同級生の背中を思い出しながら、私はもう一度、恵くんの隣でビルを見上げた。