第11章 それぞれの役割
凄まじい気迫に、さっきまで紳士的に微笑んでいた男性の顔が、みるみるうちに青ざめていく。
「い、いや……俺はただ、彼女が震えていたから、事務所でお茶でもと……」
「で? 密室連れ込んで、押しに弱そうな女に手ェ出すつもりだったんですか」
「……っ!」
辛うじて敬語の形は保っていたものの、言葉に乗せられた殺気は私にまで伝わり、私ですら指先ひとつ動かせなくなった。
「なんとか言えよ」
「……っ、」
荒々しく息を吐き出した恵くんが一歩踏み出した瞬間。
男性は腰を抜かしそうになりながら、脱兎の如く人混みの向こうへ逃げ去っていってしまった。
「……虎杖、よくやった」
「だから、お前は何でそんな偉そうなの?いいけどさ」
恵くんは虎杖くんの肩を一度だけ叩き、労いを示した。
そして男性に向けていた恵くんの鋭い眼差しは、私の方を向いた途端、慈悲を帯びたように揺れる。
「恵くん……」
震える声でその名を呼ぶと、恵くんは何かを考えるように視線を落としてから、私の頭にぽんと手を置いた。
「……遅くなった」
吐息のような掠れた言葉に、私は首を振った。
いつも通り、少し乱暴なのに優しい手が、私の頭を何度も何度も往復する。
その大きな掌から伝わる熱から、恵くんがどれほど私を案じてくれたのかが伝わってきて、ぎゅっと胸の奥が熱くなった。